【完】今日も明日も、俺はキミを好きになる。
「……ヒロ」
どんな顔をしたらいいかわからなくて、なんとなく目を伏せていると、不意に私の名を呼ぶ明希ちゃんの声が耳に届いた。
つられるように顔をあげれば、明希ちゃんの長い手が伸びてきて、私の髪を掬うように耳にかけた。
「あんまり可愛いこと言っちゃだめだよ」
「え?」
「密室で男とふたりきりなんだから、もっと警戒しないと」
囁くように言われ、思わず目を瞠る。
今更実感した。目の前の彼が、ふたつ年上の男の人だってこと。
まっすぐに、一瞬もそらすことなくこちらを見つめてくる明希ちゃんの瞳に、きゅっと変なふうに胸が締めつけられる。
「でもあなたは、私が嫌がることはしない人だって、わかってるつもりだから」
できるだけいつもどおりの硬い声でそう返すと。
「それは反則だなぁ」
ふっと、ピンと張った糸が緩んだように明希ちゃんが破顔した。
人のことなんて、信用してなかった。
その、はずなのに。
この人といると、私の心を守るガードがなぜか緩くなってしまう。
明希ちゃんがここにいる理由は、結局わからなかった。
だけど、明日も私はここに来るんだろうと、それだけはたしかな気がしていた。