君を想って
明希と付き合いはじめて二年、僕は地元のそこそこの企業に就職して、明希は専門学校に行っていた。

週末になると出掛けたり、就職して住み始めた僕のアパートで一日中映画をみたりと、贅沢ではないがとても幸せな日々をおくっていた。

でもそんな幸せな日々も長くは続かなかった。

肌寒くなり始めた十月、明希が突然で倒れたと明希と同じ専門学校に通っている友達から連絡がきた。

いてもたってもいられず上司に頭下げ早退させてもらい明希が運ばれたという病院に急いでむかった。

病室に入ると明希は起きていて僕に気づいて笑顔を見せて言った。
「わざわざ早退してまでお見舞いに来なくてよかったのに。そんなに心配してくれたの?」
明希はからかうようにそう言った。

「当たり前だろ。心配するにきまってるじゃないか」
僕は無意識に怒鳴るような口調でそう言ってしまった。

「ごめんなさい。でも来てくれて嬉しい。ありがとう」
そう言うと明希は表情を曇らせた。
少しだけ沈黙が流れたあと明希が口を開いた。

「あのね、私もう長くないみたい。病院の先生が言うにはあと三ヶ月ぐらいだって」
と明希が言った。

最初は明希が何を言っているのかわからなかった。

何度も明希が言った言葉を頭の中で繰り返していくうちに言葉の意味を理解した。

「なんで急に」なんとかそれだけ言うと彼女は、
「急にじゃないよ。ほんとはずっと前から知ってたの。でも、言えなかった」
そう言った明希の表情が冗談なんかじゃないことを物語っていた。

結局その日はなにも言えずゆっくりと帰路についた。

とても信じられなかった。信じたくなかった。

次の日会社を休んで明希のいる病院に向かった。病室に入ると明希は寝ていたので起こさないようにベッド隣の椅子に座った。

明希の顔を見ると昨日あのあと泣いたのがわかった。当然だ。辛くないわけがない。

僕はそっと明希の手を握った。

目を開けると彼女が起きていて僕の頭を撫でていた。どうやら寝てしまっていたようだ。

僕は明希の顔を見ることができなかった。

すると明希が、
「下なんか見てないで私を見て。私が死ぬまでは私を見てて」
と言った。

僕が顔を上げると明希はいつものように笑っていた。
「私が死ぬまであと、三ヶ月もあるよ。それまでいっぱい笑っていようよ。私、誠一の笑ってる顔好きだよ」
明希はそう言うとまた僕の頭をなでた。

僕は自分が情けなくなった。

辛いのは明希のほうなのに、僕が慰められどうするんだ。

あと、三ヶ月、明希の為にずっと笑ってそばにいよう。

僕はそう心に誓った。
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