あなたの細い腕
プロローグ
深夜、隣に寝ていた人物が起き出す気配に意識が浮上する。
私が目を開けるかどうかのうちに、カチリとジッポライターの音が小さく響き、すぐに漂う煙草の香り。
重たい目蓋をゆっくりと開き、寝返りを打つと案の定。ベッドの脇に蹲るチカがいた。

「・・・どうしたの」

寝起きで掠れる声。答えはなくただ首を横に振る。
いつもの事だ。チカが夜に起き出すのも、何だかんだで私がそれを放っておけないのも。
ベッドの上から芋虫のように這い寄って、チカの腰に腕を回す。
力を込めて引き寄せれば、抵抗も無く寄ってくる細い身体。
巻き付くようにして平たい腹部に顔を埋めると、頭上からくすりと笑う気配がした。煙の匂い。

「どうしたの」

再び問いかける。くしゃりと髪を撫でられる。
相変わらず答えは無くて、不貞腐れた私はチカに背を向けベッドに丸くなる。
そうすると困ったように、チカは煙草を消してベッドの上に戻ってくる。
几帳面な彼女は、ベッドに上がると必ず掛け布団を整える。
綺麗に整ったのを確認すると横になり、背を向ける私の身体に遠慮がちに腕を回し、抱き締めるのだ。

「・・・ななこさん?」

ハスキーなチカの声。小さく囁く声に少しだけ振り向く。

「どした?」

抱き締める腕に力が篭る。

「・・・愛してる。」

「ん。」

少しの不機嫌なんて、チカのこの一言で軽く収まる。でも簡単に折れるのも悔しくて素っ気無い返事。
私のそんな心情を察しているチカは満足そうに低く笑う。


私もチカも、どっちも女。だけど恋人。
女の体。女の心。だけど女に恋をする。


腰に回った腕を軽く解き、チカの方へ向き直る。
胸元に擦り寄ると、煙草と仄かな体臭の混じったチカの匂い。
言わずとも差し出される腕枕に頭を乗せて、眠りに落ちた。
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