名前のない星
しばらく時間が経った。


俺はそういえばあまり星について知らない。


中学の理科でやったことなんてそれこそ流れ星みたいに忘れた。


時間はもう深夜の1時で、それでも俺らはぼそぼそ話しながらそこにいたけれど、流星群は来てくれなかったのだった。







「何て言うんだっけ、その流星群の名前」


と俺は未菜に言われながら少し寝ていた。


頷きを繰り返しながらなんだっけなあ、とそう言って眠くて目を閉じ続ける。


わたしもうも眠い。と未菜がゆらゆらしてきたから俺は未菜を肩に抱く。


未菜がゆらゆらして眠そうに目をこする。


眠そうにする未菜は緩い。


いつもは冷ややかな目も目の幅をぴったり合わせて口調さえ大人しい。


ベンチに座ったそこは、秋の終わりと冬への駆け足するような風が吹いていて、寒くて、未菜のその体温がゆっくり伝わってくるのがわかった。


流れ星なんて柄ではないとまた思った。消えてしまうだけだ。


確かにそのあたたかさには満たされた。そのゆっくり伝わって来るのが愛しかった。


見えねぇ、と俺は独り言みたいにそう言ったとき、


「あったかいからいいよ」


俺の鎖骨らへんから未菜が言った。


その感じがとても似合わないのにと俺は思った。


見えない、と未菜に言って、眠くてすごいゆらゆらしながら、見えねぇ、と無意識に俺は繰り返した。


それはさっきも聞いた、と未菜は俺を覗き込むみたいに見て笑う。何だかとても柄ではない。


変な顔してる、と未菜は言ってまた目を向けて少し緩む。


例えばこういうことひとつで満たされて、また見れるときが来ると思う? と聞かれながら意識はあったかい肩といつからか繋いだ手の方向へあった。


今度っていつになんだろうな、いつという言葉が引っかかった。


未菜の意識はこんなに近い、同じ温度になっていく体。


いつか見れるかな、独り言みたいに未菜も繰り返す。


星なんてよくわからない。


だからせめて考えていることが今の俺らの全てなどになれやしないのだろうか。


いつだと思う? 何で見れないの? 眠い。


俺と未菜の意識の収束も触れた肩から伝わって、繋いだ手へと確実に循環したあたたかさではわからない。


そんなことを俺は考えていたから、やっぱり柄じゃなかったのだ。


あたたかくて幸せだったのに、そんなことを考えて、苦しかった気がしている。


きっと未菜の意識は違うところにあった。


そんなことはいつだってわかっていたつもりに俺は、なっていた。


あたたかいだけで十分に満たされたはずだったのだ。流れ星なんてどうして見に行ったんだろう。



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