白雪姫 ~another story~

「こんにちは」

すっかりお腹も大きくなり、できる作業が少なくなってきた。

私は接客やブーケや花束作りなど、あまり動かない部分を担当するようになった。

だから花の配達などは大輝に任せっきりになってしまっている。

私がお店の中のお花の手入れをしていると

「すみません」

とお店の入り口の方から声がした。

「いらっしゃいませ」

そう言って出て行くと、入り口のドアのところに見慣れない男の子が立っていた。

その男の子は制服を着ていた。

高校生かな...?

めずらしい

「花束を作って欲しいんですが...」

と男の子は言った。

「はい、どのような感じにしましょうか?」

「明るい感じにしたいんですけど...」

「わかりました、少しお待ちいただけますか?」

「はい」

男の子は注文を終えるとお店の中の花を見始めた。

「どなたにあげるんですか?」

私はなんとなくたずねてみた。

すると彼は少し照れ臭そうに

「彼女です...」

と言った。

「誕生日か何かですか?」

と私がたずねると

「彼女が入院してて、それで...」

と悲しそうにこちらを見て笑った。

「ごめんなさい...」

「あ、大丈夫ですよ」

と男の子は誤魔化すように笑った。

少し気まずい雰囲気になってしまった。

私は何を言えばいいかわからなくなってしまった。

すると

「彼女とは病院で出会ったんです。いつも小さな子たちに絵本を読んでいて、その姿が素敵で...」

と恥ずかしそうに言った。

なんだか結姫と柊馬みたい

「私にも昔いつも病院で絵本を読んでたすごく綺麗な友達がいたわ」

と私はいつのまにか結姫のことを話していた。

すると

「白雪姫...ですか?」

と男の子は言った。

「彼女のことを知っているの?」

と私がたずねると

「俺は会ったことはないんです。でも俺の彼女が小さい時、入院していた病院でいつも絵本を読んでくれていたと...」

っ...

私は思わず手を止めてしまっていた。

「それでそんな白雪姫みたいになりたくて今、絵本を読んでるって」

と男の子はまっすぐに私を見た。

嘘みたい...

嬉しくて涙が出そうになる。

結姫のことを覚えていてくれる人が私たちの他にもいたなんて。

でも今は仕事中だから泣いちゃダメ。

そう自分に言い聞かせ、花束を作った。

「できました」

そう言って男の子に渡すと

「また、ここに買いに来ます。その時は彼女も一緒に」

と楽しそうに言った。

「うん、待ってるね」

と彼を病院へ送り出した。

男の子はもう一度お辞儀をすると花束を大事そうに抱えながら歩いて行った。


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