ぷりけつヒーロー 尻は地球を救う 第3話
「おもしれぇガキだな、お前。気に入ったぜ。お前を見てるとリリーを思い出すぜ。なぁ?晋助さんよ」
暗い表情を浮かべて視線を逸らし、言い返せずに黙り込んでしまう晋助。葵は率直な疑問としてベルに訊ねた。
「そのリリーって誰よ」
それは万次郎たちにとってもずっと訊きたかったことだった。しかし、晋助のただならぬ様子と、晋助との約束のこともあり、今まで訊けずにいたのだ。周囲に重く、短い沈黙が流れる。
ベルはほくそ笑むと、静かに口を開いた。
「リリーってのは昔いた俺たちの仲間の1人だ。ありとあらゆる武術を極めた女でな。その拳や脚に斬撃や炎、氷、雷を纏わせて戦う女だった。強かったよ、あいつは。本当に強かった。ただ強いだけじゃない。人としての強さも兼ね備えてた最高の女だった……。もし今あいつがいたら凛太郎、お前の力にもなってくれただろう。しかし、奴はもういない。なぜなら……そこにいる丸田晋助!てめぇに殺されたからだ!!」
一同に衝撃が走る。凛太郎たちは息を呑んだ。そんな中、葵だけがただ1人、怪訝な表情を浮かべていた。
「熱くなってるところを申し訳ないんだけどさ、一つ訊いていい?」
「……なんだ?」
「あなた、なんでそこまでリリーって人にこだわってるの?」
葵の意外な質問にベルは一瞬驚きの表情を見せた。
「なぜそんなことを訊く?」
「質問に質問で返すのは感心しないわね。訊いてるのはこっちよ。まぁいいわ、答えてあげる。ずっと引っかかってたのよ。あの時もそうだったけど、リリーって人のことを真っ先に言い出して怒ってたのはあなた。そして、今回も。他の連中はむしろ私たちの前でその名前を出すのを躊躇っているように見えたわ。まるでタブーのようにね。でも、あなただけは違った。なぜかしら?なにか訳でもあるの?」
ベルは微笑を浮かべると葵の質問に答える。
「お前、ガキにしてはえらく頭が切れるな、驚いたぜ。ますます気に入った。いいだろう、教えてやるよ。俺がリリーにこだわるのは、リリーが俺の……婚約者だったからだ!」
再び一同の間に衝撃が走った。驚きの表情を隠しきれない万次郎たち。晋助だけがずっと視線を逸らし、暗い表情を浮かべている。
「そこまでだ!ベルよ」
一同が声のした方を向くと、そこには漆黒の甲冑とマントを身に纏い、口元を黒い面頬で隠した、葵より背の小さい小学校低学年くらいの銀髪の少年と、目元まで覆われたフードが特徴的な白いローブを身に纏い、右手に杖を持った男が立っていた。
ベルは銀髪の少年の出現に激しく動揺している。銀髪の少年の鋭い視線がベルを捉えて離さない。
「コ、コウ様!?なぜセアラと一緒に……!」
「なに、凜太郎という男がどのような男かと思ってな。気になり、顔を見にきたまでのことよ。それよりもベル。我は凜太郎に剣術を学ばせるために貴様をここへ向かわせたはず。それが何故このようなことになっておるのだ」
「そ、それは……」
冷や汗をかき、たじろぐベル。それをコウは依然として鋭い眼で睨みつけている。
「今回、晋助からの依頼を受け、我は剣の腕でも信頼しておる貴様を向かわせた。つまり、これは我らの仕事だ。その場で貴様はなにをしておるのだと訊いておるのだ。答えよ、ベル」
ベルはコウに威圧され、恐怖でなにも答えることができずに立ちすくんでいる。
その様子を見たベルは静かに目を瞑ると深い溜め息をついた。
「もうよい」
そう言うや否や、コウは目を見開き、一瞬でベルの目の前まで移動したかと思うと、その小さな身体からは想像できないほどの脚力でベルを蹴り飛ばした。ベルは吐血し、5m先の壁に強く叩きつけられた。光より速いその速さに一瞬なにが起こったか分からず、反応が遅れる一同。他の者がそれに気づいたのはベルが叩きつけられた後のことだった。
「そこで少し頭を冷やすがよい。愚か者め」
ベルは口から血を垂れ流してぐったりとし、完全に気を失っている。
「あの男も怪人を倒した手練れ、相当強いはずだ。それを武器も使わず、ただの蹴り一撃で……!このコウという男、どれほど強いというのだ」
ベルに助けられたことのある万次郎は彼のその強さも十分理解していた。故に、赤子の手をひねるが如く、いとも簡単にベルを倒すコウの底知れない強さを誰よりも感じ取っていた。
「う、動きが見えなかったぜ……!こいつ、マジで怪人よりやべぇぞ!!」
コウに威圧され、無意識に一歩引いてしまう敏也。それに気づいた照子が敏也に喝を入れる。
「し、しっかりしなさいよ!あんた、男でしょ!?」
「う、うるせぇ!!お前だって脚震えてんじゃねぇか!!」
「私はいいのよ!女の子なんだから!!」
「はぁ!?"女の子"だぁ!?どの口がそんなこと言ってんだ!」
「どういう意味よ!!」
「やめんか!!二人とも!落ち着くんじゃ!」
照子と敏也の間に入り、二人を制止する晋助。その間、葵は自責の念に駆られ、うつむき、落ち込んでいた。
「ごめんなさい、おじいちゃん。私が余計なこと訊いたりしたから、こんなことに……」
晋助は葵の頭を優しく撫でた。
「葵ちゃんはなにも間違ったことはしとらんし、なにも悪くない。じゃから、なにも気にすることはないんじゃよ。大丈夫じゃ」
「おじいちゃん……」
不安げに晋助を見つめる葵。そこへ凜太郎が近づき、再び葵と同じ目線の高さまでしゃがみ込むと優しく微笑んだ。
「そうだよ、葵ちゃん。俺たちもいるし、所長たちもいる。それに、あの人たちは俺に剣の稽古をつけるために来たんだ。少なくとも今はこっちになにか悪さをすることはないはずだよ。頭のいい君なら分かるよね?」
「うん……」
「後は俺に任せて、君は万次郎さん、敏也さんと一緒に部屋に隠れててくれるかな?」
「分かったわ。凜太郎お兄ちゃん!頑張ってね!!」
「ありがとう。万次郎さん、敏也さん。葵ちゃんをお願いします」
「あぁ、任せろ」
「頑張れよ!凜太郎!!」
葵を連れ、その場を後にする万次郎と敏也。静観していたコウが口を開く。
「話は済んだか?」
「あぁ」
「では、改めて自己紹介をしておこう。我の名はコウ。隣にいるのがセアラだ。そして、そこで寝ておるのがベル。本来であればそこのベルが貴様に剣術を教えるはずであったが、あの有り様なのでな、今回は特別に我が直々に稽古をつけてやろう」
その言葉に驚く晋助とセアラ。
「ちょ、ちょっと待て!!おぬしが凜太郎に稽古をつけるのか!?」
「なんだ?晋助。我では不服だというのか?」
「い、いや……そういうわけではないんじゃが」
「であれば、問題あるまい。なに、気にするな。騒がせてしまった、せめてもの詫びだ。我が直接稽古をつけることなど滅多にないのだが、今回は晋助からの依頼。応えねばなるまい」
「コウ様!なにもそこまでしなくてもよろしいのでは……?」
「では貴様が教えるというのか?セアラ。剣を使えん貴様がなにを、どのように教えるというのだ。申してみよ」
「そ、それは……」
コウの問いかけになにも答えることができず、黙り込んでしまうセアラ。
「答えは出たようだな。では、行くとしよう。晋助、悪いが転送装置を少し借りるぞ。セアラ、貴様もついてこい」
「はっ!」
転送装置のある部屋へと向かうコウ、セアラ、凜太郎の三人。
「待ってくれ!!」
晋助は三人を呼び止めた。
「今更かもしれんが……。リリーのことは本当に、すまなかった……」
コウに頭を下げる晋助。コウはそれを氷のように冷たい眼で見つめている。
「それは、言うべき相手が違うのではないか?晋助よ」
晋助に背を向けたまま、ベルの方へ視線を向けるコウ。晋助は頭を下げたまま動こうとしない。三人はそのまま転送装置のある部屋へと向かい、こことは違うどこかへと向かっていった。
「所長……」
晋助を気遣い、心配そうに見つめる照子。
「コウよ。わしに、わしにどうしろというんじゃ……」
姿勢はそのままに、その場で立ち尽くす晋助。脳裏に過去の光景が甦り、目から涙が零れ落ちそうになるのをぐっと堪える。照子はかける言葉が見つからず、ただそばにいることしかできなかった。
暗い表情を浮かべて視線を逸らし、言い返せずに黙り込んでしまう晋助。葵は率直な疑問としてベルに訊ねた。
「そのリリーって誰よ」
それは万次郎たちにとってもずっと訊きたかったことだった。しかし、晋助のただならぬ様子と、晋助との約束のこともあり、今まで訊けずにいたのだ。周囲に重く、短い沈黙が流れる。
ベルはほくそ笑むと、静かに口を開いた。
「リリーってのは昔いた俺たちの仲間の1人だ。ありとあらゆる武術を極めた女でな。その拳や脚に斬撃や炎、氷、雷を纏わせて戦う女だった。強かったよ、あいつは。本当に強かった。ただ強いだけじゃない。人としての強さも兼ね備えてた最高の女だった……。もし今あいつがいたら凛太郎、お前の力にもなってくれただろう。しかし、奴はもういない。なぜなら……そこにいる丸田晋助!てめぇに殺されたからだ!!」
一同に衝撃が走る。凛太郎たちは息を呑んだ。そんな中、葵だけがただ1人、怪訝な表情を浮かべていた。
「熱くなってるところを申し訳ないんだけどさ、一つ訊いていい?」
「……なんだ?」
「あなた、なんでそこまでリリーって人にこだわってるの?」
葵の意外な質問にベルは一瞬驚きの表情を見せた。
「なぜそんなことを訊く?」
「質問に質問で返すのは感心しないわね。訊いてるのはこっちよ。まぁいいわ、答えてあげる。ずっと引っかかってたのよ。あの時もそうだったけど、リリーって人のことを真っ先に言い出して怒ってたのはあなた。そして、今回も。他の連中はむしろ私たちの前でその名前を出すのを躊躇っているように見えたわ。まるでタブーのようにね。でも、あなただけは違った。なぜかしら?なにか訳でもあるの?」
ベルは微笑を浮かべると葵の質問に答える。
「お前、ガキにしてはえらく頭が切れるな、驚いたぜ。ますます気に入った。いいだろう、教えてやるよ。俺がリリーにこだわるのは、リリーが俺の……婚約者だったからだ!」
再び一同の間に衝撃が走った。驚きの表情を隠しきれない万次郎たち。晋助だけがずっと視線を逸らし、暗い表情を浮かべている。
「そこまでだ!ベルよ」
一同が声のした方を向くと、そこには漆黒の甲冑とマントを身に纏い、口元を黒い面頬で隠した、葵より背の小さい小学校低学年くらいの銀髪の少年と、目元まで覆われたフードが特徴的な白いローブを身に纏い、右手に杖を持った男が立っていた。
ベルは銀髪の少年の出現に激しく動揺している。銀髪の少年の鋭い視線がベルを捉えて離さない。
「コ、コウ様!?なぜセアラと一緒に……!」
「なに、凜太郎という男がどのような男かと思ってな。気になり、顔を見にきたまでのことよ。それよりもベル。我は凜太郎に剣術を学ばせるために貴様をここへ向かわせたはず。それが何故このようなことになっておるのだ」
「そ、それは……」
冷や汗をかき、たじろぐベル。それをコウは依然として鋭い眼で睨みつけている。
「今回、晋助からの依頼を受け、我は剣の腕でも信頼しておる貴様を向かわせた。つまり、これは我らの仕事だ。その場で貴様はなにをしておるのだと訊いておるのだ。答えよ、ベル」
ベルはコウに威圧され、恐怖でなにも答えることができずに立ちすくんでいる。
その様子を見たベルは静かに目を瞑ると深い溜め息をついた。
「もうよい」
そう言うや否や、コウは目を見開き、一瞬でベルの目の前まで移動したかと思うと、その小さな身体からは想像できないほどの脚力でベルを蹴り飛ばした。ベルは吐血し、5m先の壁に強く叩きつけられた。光より速いその速さに一瞬なにが起こったか分からず、反応が遅れる一同。他の者がそれに気づいたのはベルが叩きつけられた後のことだった。
「そこで少し頭を冷やすがよい。愚か者め」
ベルは口から血を垂れ流してぐったりとし、完全に気を失っている。
「あの男も怪人を倒した手練れ、相当強いはずだ。それを武器も使わず、ただの蹴り一撃で……!このコウという男、どれほど強いというのだ」
ベルに助けられたことのある万次郎は彼のその強さも十分理解していた。故に、赤子の手をひねるが如く、いとも簡単にベルを倒すコウの底知れない強さを誰よりも感じ取っていた。
「う、動きが見えなかったぜ……!こいつ、マジで怪人よりやべぇぞ!!」
コウに威圧され、無意識に一歩引いてしまう敏也。それに気づいた照子が敏也に喝を入れる。
「し、しっかりしなさいよ!あんた、男でしょ!?」
「う、うるせぇ!!お前だって脚震えてんじゃねぇか!!」
「私はいいのよ!女の子なんだから!!」
「はぁ!?"女の子"だぁ!?どの口がそんなこと言ってんだ!」
「どういう意味よ!!」
「やめんか!!二人とも!落ち着くんじゃ!」
照子と敏也の間に入り、二人を制止する晋助。その間、葵は自責の念に駆られ、うつむき、落ち込んでいた。
「ごめんなさい、おじいちゃん。私が余計なこと訊いたりしたから、こんなことに……」
晋助は葵の頭を優しく撫でた。
「葵ちゃんはなにも間違ったことはしとらんし、なにも悪くない。じゃから、なにも気にすることはないんじゃよ。大丈夫じゃ」
「おじいちゃん……」
不安げに晋助を見つめる葵。そこへ凜太郎が近づき、再び葵と同じ目線の高さまでしゃがみ込むと優しく微笑んだ。
「そうだよ、葵ちゃん。俺たちもいるし、所長たちもいる。それに、あの人たちは俺に剣の稽古をつけるために来たんだ。少なくとも今はこっちになにか悪さをすることはないはずだよ。頭のいい君なら分かるよね?」
「うん……」
「後は俺に任せて、君は万次郎さん、敏也さんと一緒に部屋に隠れててくれるかな?」
「分かったわ。凜太郎お兄ちゃん!頑張ってね!!」
「ありがとう。万次郎さん、敏也さん。葵ちゃんをお願いします」
「あぁ、任せろ」
「頑張れよ!凜太郎!!」
葵を連れ、その場を後にする万次郎と敏也。静観していたコウが口を開く。
「話は済んだか?」
「あぁ」
「では、改めて自己紹介をしておこう。我の名はコウ。隣にいるのがセアラだ。そして、そこで寝ておるのがベル。本来であればそこのベルが貴様に剣術を教えるはずであったが、あの有り様なのでな、今回は特別に我が直々に稽古をつけてやろう」
その言葉に驚く晋助とセアラ。
「ちょ、ちょっと待て!!おぬしが凜太郎に稽古をつけるのか!?」
「なんだ?晋助。我では不服だというのか?」
「い、いや……そういうわけではないんじゃが」
「であれば、問題あるまい。なに、気にするな。騒がせてしまった、せめてもの詫びだ。我が直接稽古をつけることなど滅多にないのだが、今回は晋助からの依頼。応えねばなるまい」
「コウ様!なにもそこまでしなくてもよろしいのでは……?」
「では貴様が教えるというのか?セアラ。剣を使えん貴様がなにを、どのように教えるというのだ。申してみよ」
「そ、それは……」
コウの問いかけになにも答えることができず、黙り込んでしまうセアラ。
「答えは出たようだな。では、行くとしよう。晋助、悪いが転送装置を少し借りるぞ。セアラ、貴様もついてこい」
「はっ!」
転送装置のある部屋へと向かうコウ、セアラ、凜太郎の三人。
「待ってくれ!!」
晋助は三人を呼び止めた。
「今更かもしれんが……。リリーのことは本当に、すまなかった……」
コウに頭を下げる晋助。コウはそれを氷のように冷たい眼で見つめている。
「それは、言うべき相手が違うのではないか?晋助よ」
晋助に背を向けたまま、ベルの方へ視線を向けるコウ。晋助は頭を下げたまま動こうとしない。三人はそのまま転送装置のある部屋へと向かい、こことは違うどこかへと向かっていった。
「所長……」
晋助を気遣い、心配そうに見つめる照子。
「コウよ。わしに、わしにどうしろというんじゃ……」
姿勢はそのままに、その場で立ち尽くす晋助。脳裏に過去の光景が甦り、目から涙が零れ落ちそうになるのをぐっと堪える。照子はかける言葉が見つからず、ただそばにいることしかできなかった。