ぷりけつヒーロー 尻は地球を救う 第3話
 一方その頃、コウに吹き飛ばされた凜太郎は広い荒野のど真ん中で意識を失っていた。吐血したのか、その口からは血が流れ出ていた。衝撃と痛みは背中を貫通して肋骨まで達し、骨は粉々に砕け散っている。臓器の損傷も激しい。
そこへ黒い渦が現れ、その中からセアラが現れた。セアラは凜太郎の様子を目視で確認すると深い溜め息を漏らした。
「やれやれ……。世話のかかる子ですね」
そう言うとセアラは杖に力を込めはじめた。杖の先端が緑色に美しく輝きだす。すると、同様の光が凜太郎の身体全体を優しく包み込むように現れ、その光は体内外の傷を瞬時に癒した。傷が完治した凜太郎は眠りから覚めるように瞼を開けてからゆっくりと立ち上がった。
「あれ?俺、なんでこんなところに……」
「おはようございます。ヒーローさん」
凜太郎が後ろを振り返ると、そこにはセアラが微笑を浮かべながら立っていた。
「あなたは、たしか……セアラ、さん、でしたっけ?」
「憶えていただき光栄です」
凜太郎は現在地を確認するかのように辺りを見渡した。
「ここは?」
「あなたはコウ様に蹴り飛ばされたんです。変身していたからこの程度で済みましたが、生身の状態だったら間違いなくあなたは死んでいたことでしょう。その妙なコスチュームに感謝するのですね」
凜太郎の脳裏に蹴り飛ばされた瞬間の光景が甦る。
「コ、コウさんは!?」
「向こうで首を長くしてお待ちですよ」
「結構待たせちゃってますよね?」
「待たせちゃってますね」
「……怒ってました?」
「さぁ、どうでしょう。でも、これ以上お待たせするのは得策とはいえないかもしれませんね。あの方も短気なところがありますから」
「今すぐ戻りましょう!!」
「かしこまりました。では、私の肩に掴まってください。移動しますよ」
凜太郎は言われた通り、セアラの肩にしっかり掴まった。セアラはそれを確認すると、杖に力を込めはじめた。杖の先端が再び黒く輝きだし、黒い渦が現れる。二人はその渦の中へと消えていった。



 コウの背後に黒い渦が出現し、その中から凜太郎とセアラが現れる。凜太郎は初めての体験に驚きを隠せない。少し興奮しているようだ。
「す、凄いですね!これ!!これが"魔法"ってやつですか?」
「えぇ、簡単にいえばそうなりますね。あなたの傷を癒したのもそれの一種です」
「これがあれば転送装置なんて必要ないですね!」
「まぁそうなりますかね。ただ、この力はあなたの必殺技同様、使用するには多少エネルギーを使用するんですよ。だから、調子に乗って無駄に多用すると肝心な時に使用できなくなります。だから、ここへ移動する時もあえて転送装置を使ったのです。無駄な消費を避けるために、ね」
「なるほど……」
「我のいないところで随分仲良くなったみたいだな、貴様ら」
振り向かず、背を向けたままの状態で口を開くコウ。二人は一瞬、肩をビクつかせた。
「も、申し訳ございません。コウ様。無駄口が過ぎました」
セアラはその場で跪き、頭を下げた。コウは二人の方へ向き直ると、セアラの方へ視線を向けた。
「よい、我は気にしておらん。して、そやつの傷の具合はどうなっておる?」
「はっ!すでに完治しております」
「うむ、さすがはセアラだ。よくやってくれた」
「有り難きお言葉」
コウは次に凜太郎の方へ視線を向けた。凜太郎が落とした剣を投げ渡す。
「今の貴様の実力がいかほどか、だいたい把握した。これより本格的に剣術を教えてやる。それと、耐久力も鍛える必要がある。今の状態ではこれから出現するであろう巨人共の攻撃に耐えられんだろうからな」
「はい!!よ、よろしくお願いします!」
「返事だけは一人前だな。まぁいい、では早速始めるぞ」
「はい!!」
こうして、コウによる凜太郎の稽古は始まった。この日の稽古は5時間以上にも上った。



 朝日が昇り、明るくなった頃。この日の稽古がようやく終わろうとしていた。日本時間で23時半といったところだろうか。凜太郎の疲れもピークに達していた。
「今日のところはこれくらいでよかろう」
コウの口からその言葉を聞いた凜太郎は気が抜けてしまい、その場でへたり込んだ。
「つ、疲れた~!!」
「お疲れ様でした」
セアラは凜太郎に微笑みかけた。
「明日も同じ時間から始める。遅れるな、よいな?」
コウの無情ともいえる言葉に凜太郎は思わず自身の耳を疑った。
「あ、明日もするんですか!?」
「当たり前だ。1日そこら鍛えたくらいでいきなり強くなったりはせん。強さというものは日々の鍛練を欠かさず、継続して行い、その先でようやく手に入れるものだ。簡単に強くなれると思ったら大間違いだ。もっとも、貴様が強くなりたくないのであれば、我は止めはせんが」
己を奮い立たせ、凜太郎はその場で立ちあがった。
「そんなことありません!俺、もっと強くなりたいです!!」
「であるならば、すでに答えは決まっているはずだ。泣き言をほざく暇があるなら己がどうすれば今以上に強くなれるか考えよ。己を超え、限界を超えろ」
「はい!明日も、よろしくお願いします!!」
凜太郎はコウに深々と頭を下げた。
「相変わらず返事だけは一人前だな。明日は今日以上に厳しいものとなるだろう。覚悟しとけ」
「はい!!」
「剣を解除するのを忘れるなよ」
「あっ、そうだった。え~っと……ぷりけつソード、解除!」
凜太郎がそう言うと剣は光の粒となって消えた。
「では、帰るぞ。セアラ、研究所まで頼む」
「はっ!かしこまりました」
セアラは再び杖に力を込めると黒い渦を出現させ、三人はその中へと消え去っていった。
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