マリッジコンプレックス




「あれ?希美じゃね?」




ふいにかけられた声にビクッとした。


だってそれは今一番会いたくない人物の声だったから。


恐る恐る声のする方へ顔を上げると、そこにいたのはやっぱり…




「あー!やっぱ、希美だ!ひっさしぶりじゃん

つーか、お前こんなとこでなにしてんの?

なんかめかしこんでるけど、もしかしてデートとか?」




散々、こいつからの連絡を無視していたっていうのに、全然気にもしてない態度で私の前の席に当然のごとく座ってくる。



誰か!この空気の読めない男の口を塞いでくれ!




「あのね!デートだと思ったんならほっといてくんないかな?
なんでそこにふっつーに座ってんのよ!」




なるべく小声で抗議してみるも、こいつにはのれんに腕押し状態だ。


「ええー、だってお前、全然電話も出ねーんだもん

例のチケットだって結局違うやつと見に行ったんだぜ?

せっかくお前が喜ぶと思ったのに」


こいつはいったい何の権利があって、わたしに構うんだろう?


いい加減、付き合う気もない女に構うのはやめてくれ!


わざと大げさなくらいため息をつくと、私は塁を睨んだ。



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