マリッジコンプレックス
地団駄を踏むとはこのことかと思うくらい悔しさで足をダンダンさせていると、階下の大きな非常扉がゆっくりと開く音が聞こえた。


やばっ!こんな話誰かに聞かれたら目も当てられない。


秋絵さんも人差し指をそっと口元に当てながら様子を伺う。


下から階段を上ってくる足音が聞こえて、ひょっこり顔を出したのは庶務の課長だった。



「なんだ、杉村課長」



私がそうホッとしたように声をかけると、課長は驚いたような顔で私と秋絵さんを交互に見比べた。



「びっくりしたなぁ、なにやってんだ?こんなとこで」



ハハッと目尻にシワを寄せながら笑う杉村課長は、私たち交換室の直属の上司だ。


わりと親しみやすく話しやすいことから、みんな上司だということを忘れて気軽に冗談も言えちゃうようなタイプである。



「これからお昼なんです、課長もですか?」



「いや、俺はちょっと上の階に用事があるだけ」


「なーんだ、そうなんですね?ランチご馳走してもらおうかと思ったのに」



「おいおい、勘弁してくれよ、俺も小遣い制なんだぞ?」


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