初恋
優の中でゆっくりと流れる季節も、花実には何倍にも早く感じていた。
その日は夏から秋に変わり、急激に寒くなった日だった。
まだ上着を着ていなかった優は後悔しながら土手で花実を待っていた。
中学生になってから、声の高さも喋り方も、振る舞いも、急激に大人びた花実だったが、その日は出会った時のような、優が一番好きな花実がやってきた。
心も体もはねさせて、制服のスカートが揺れている。
「なんで今日そんな元気なの?」
花実が何かを言う前に、優はつっこんだ。
「やっぱり、分かる?」
「わかりやすすぎるくらいに」
スカートが汚れることも気にせず、いつものように優の隣の土手の上に腰掛けた。
「今日はね、素敵な本に出会えたの」
「それは・・・大人になった花実さんのテンションも上がりますなあ」
「ふふっでしょでしょ」
嫌味を入れたつもりだったが、全く伝わっていないようで、にっこにこの花実とは裏腹に、優は不機嫌な顔をしてみせた。