初恋
会話もなければテスト勉強も進まない。
持ったままのペンが一切動いていないことに気づいた花実が、また、意地悪を仕掛けてきた。
「優さん全然集中してないでしょ」
「…してるよ」
「してない。さっきから全然ペンが動いてない」
「…考えてんだよ」
「絶対集中してなかったのに」と言いたいのと、優が一切こっちを見ないことに少し不満げな花実が、口を尖らせる。
それでもこちらを見ようとしない優に諦め、開いていた教科書に目線を落とす。
不満だ。すごく不満だ。
雨の音と目の前の男の子のため息がたまに聞こえる、2人きりの図書館。
ただ本を読みたいんじゃない。
ただ一緒に勉強をしたいんじゃない。
そういう話がしたいんじゃない。
花実は教科書にある「初恋」の文字を指でなぞった。