初恋
「やっぱりこの詩、あたしたちみたいだね」
「そう?」
そっぽを向いて懸命に感情を隠したつもりだった。
でも、
「だって優、あたしのこと好きでしょ?」
静かな図書館の中、雨の音だけが響く。
少しだけ肌寒い。
分かっていた。
そんなことはとうの昔に分かっていた。
ただ、気付かない振りをしていた。
恋なんてしたことなかったから。
初めて女の子を好きになって、どうしていいか分からなかった。
小学生の自分が、ようやく中学生になれた自分が、ずっと彼女に追いつけない自分が、好きになったところで何が出来る?
独占欲だけが積み重なって、嫉妬だけが溜まって、この感情が大きくなるのを隠すことしか出来なかった。
ーーそれを暴こうとした、花実が悪い。
手元の教科書を無理やり閉じ、優は花実の顔に手を伸ばした。
机一つ分の距離なんてすぐに詰めてやった。
優のため息が、花実の髪を微かに揺らす。