初恋
その日は、一睡も出来なかった。
緊張と、悲しさと、淋しさと、色んな感情が混ざり合い、疲れた目を擦る。
優の気持ちとは裏腹に、窓の外には嫌気がさすほど青空が広がった朝があった。
時の流れと、花実との約束には逆らえず、優は10時に花実の家を訪れた。
玄関先では、ちょうど花実の母が引越し業者の2tトラックを見送っていたところだった。
「あら優くん。来てくれたのね。今、花実呼ぶね」
これから13年生きてきて過去最大の別れをするというのに、反して母はにこやかに言う。
そしてまた、いっそこのまま花実が出てこなければと逃避する優に反して、数分もせずに花実は現れた。
「来てくれてありがとう」
玄関から出てきた花実は、いつもとは違う、モノトーンなよそ行きの服を身にまとっていた。
「これ、返すね」
花実の手には1冊の本。