初恋
「優、またね」
「うん、またね」
鏡で見るときっと、ひどい顔をしていたと思う。
自分では、笑っていたつもりでも。
今はお別れの言葉が「さよなら」じゃないことにひどく救われる。
無意識に右手に持つ本に力が入る。
優は花実の後ろ姿を、黙って見つめ続けた。
角を曲がる、見えなくなる直前、花実が一瞬振り返る。
「はなっ…」
思わず声が出た。
聞こえたか聞こえなかったかは分からない。
花実は、その一瞬手を振り、角を曲がった。
伸びた前髪が隠した瞳。
最後、花実が泣いているのが分かった。
途端、溢れ出る涙。
優は声を押し殺し、本に顔をうずめて泣いた。
虹もかからない、渇いた空だった。