初恋
花実が引越してから1ヶ月。
「手紙書くから」と言ってくれた花実からの手紙は届かない。
あの日返ってきた本は未だ本棚にしまえず、帰った時のまま、机の上に置いてある。
「嘘つきじゃん」
本を睨みつけ、そう呟く。
歩いた道を戻る時
振り返りつつまた明日
そう交し合う約束も
二度と守れぬ我となる
途端、花実が島崎藤村の詩に付け加えた最後の一節を思い出した。
救われていたはずの「またね」が急に苦しく感じる。
やっぱりもう、会えないのだろうか。
繋がっていることは出来ないのだろうか。
切なく、悲しく、優は花実に貸していた本を手に取った。