初恋
「優は、ファンタジーが好きなの?」
その日貸したのは、「誰も知らない小さな国」
土手に座りながら、お互いが借りた本をパラパラとテキトウに開いて、今日も読まずに話は始まる。
「・・・ファンタジーが多いかも」
「じゃあ、私がとっておきのファンタジーの話をしてあげる」
にっこり笑う花実。
いつの間にかもう、マフラーはいらない季節になっていた。
夢中になって話す花実に、優は釘付けになっていた。
「雨なんて降っていないのに、女の子は長靴を履いて出かけるの。その子はね、前の日が大雨だったから、水たまりがたくさんできていることを知っていてね。
道も草も花も昨日の雨でキラキラ光ってて、青よりも薄く、水色よりも少しだけ濃い空に所々雲がかかってて……女の子は太陽に背中を向けて、葉っぱにのった露をパッと飛ばすの。
そしたらね、まるで魔法みたいに綺麗な大きな虹が空に架かるの。素敵でしょ!」
気が強く、からかい上手で意地悪も多い花実だが、虹を作る話をする時は無邪気さが溢れており、小学5年生ながら、可愛いと思ってしまっていた。