【完】真昼の太陽




「親父、調べてほしい事がある。」


深夜1時過ぎ。
スマホのいちばん上に表示された名前をタップして連絡する。


電話越しにジッポの金属音がする。
ヘビースモーカーの親父のことだ。
お袋に止められているにもかかわらず隠れて吸っているのだろう。


革製の黒のソファに腰をおろし。
着ていた上着を脱ぎ捨てる。


「お前が調べものを頼むなんて珍しい。」


「内密に調べてほしい事がある。」


「なんだ。」


「今井真昼という女について調べてほしい。」


「……理由は。」


「惚れた女の事を知るのに理由なんて必要ねえだろ。」


「取引内容は?」


「俺の1日親父にやる。」


「成立だ。」


どうせこき使われるんだろうな。
想像しただけで今から疲労感に襲われる。


さっき脱ぎ捨てた上着を拾い口元に持ってくる。
ほんのり石鹸の匂いがした。
俺とは違う、女の匂い。


繁華街を歩くむせかえりそうになる甘ったるい匂いじゃなく。
柔らかくて。
名前の通り、真昼を連想させる温かい匂い。
真昼。ぴったりな名前だと思った。



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