短編集
果て
世界で一番深い場所に
少女がいました。

少女は海のそこよりも深い場所にいました。

あたりは真っ暗で何も見えません。
少女はいつも笑っていました。
にこにこと。

けれど誰もその存在を知りません。
誰もその笑顔を見たことがありません。

少女はとても美しい容姿をしていました。
けれど少女が美しいことなど、誰も見たことがないので
少女は自分が美しいことを知らないし
自分が醜いと感じることもありませんでした。



世界で一番高い場所に少年がいました。
少年の身体はいつも風に揺られていました。

けれど少年のいる場所はあまりにも高すぎて
誰も少年のことを知りませんでした。

少年はいつも泣いていました。
ぐすんぐすんと声を出して泣いていました。

けれど少年が泣いていることなど、誰も知らないので
少年を慰める人はいませんでした。


世界で一番高い場所にいる少年と
世界で一番深い場所にいる少女は

出会うことは一生無いでしょう。

それよりも、誰とも出会わないかもしれません。

少年のほうが、誰かに出会う確率が高いかもしれません。

けれど少年に出会った人はきっと、目の錯覚だと思うでしょう。
世界で一番高い場所で泣いているのだから。

少年のいる場所は、宇宙かもしれません。

少年のいる場所は雲の中かもしれません。

少女のいる場所は誰も来ませんでした。
いつかは誰かが来るかもしれないけれど、
それでも誰もきませんでした。

少女のいる場所はもしかしたら世界で一番深い場所でありながら世界で一番浅い場所かもしれません。

だって地球は丸いから。

一番深い場所を貫通して浅い場所に出てしまうこともあるでしょう。

けれど少女は見つかりません。


そんな少女と少年は

誰にも知られることなく死んでしまいます。

けれど誰も悲しみません。

だって誰も知らないのだから。

知らなければ、無いと同じことでしょう?
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