天使は金の瞳で毒を盛る
「ああ、あたしもため息出ちゃいます。」

篠山さんが言った。私は慌てて言った。

「ごめんね、うつっちゃうよね、気をつける」

「いえ、そうじゃなくって。早く課長帰ってこないかなあって」

「なんで?なにかあった?」

私の質問に彼女は首を振った。

「違いますよ、モチベーションの話です。課長いるとやる気出るんですよねえ」

「あ、それはわかるなあ」

林さんが言った。

「ですよね?なんか仕事に行きたくない日でも、課長いると思うと行く気になるっていうか。一ヶ月前までどうしていたのか思い出せませんもん」

そうそう、と林さんが相づちをうち二人でもりあがっている。

ごめんなさい、全然わかんない。むしろ私は彼が来てからモチベーションさがってますから。

その言葉を口に出すことなく、目の前の書類に取り組んだ。とにかく、やらないことには始まらないわけで。

と、内線がなった。少し離れた席にいる佐藤さんが取る声がする。二つ先輩の男性社員だ。

「ええ。はい。その件なら。え、あれ、ちょっと待ってくださいね」

書類から目をあげて彼を見ると、難しい顔して電話しながらパソコンを打っていた。

「すいません、確認してまた後で連絡します、はい」

佐藤さんは電話をきると、厳しい表情でキーボードを打ち続けた。

< 10 / 180 >

この作品をシェア

pagetop