天使は金の瞳で毒を盛る
資料室は誰もいなかった。私は薄暗い部屋の中で一人で資料を棚に並べる。意外にこういうのって集中できるんだよね。

「さて、終わり」

最後の書類のファイルを棚にしまった時には、むしろ充実感を感じた。

その時、入口の戸が開く音がして人が入ってきたのがわかった。誰だろう、と覗く前に声で誰かわかった。

「外部でエンジニア頼んでいるんですからそちらに頼めばいいじゃないですか」

「だって、めんどくさいもん。ちょっとの事だし。ハルの方が早いよ」

「あなたのちょっとはちょっとですまないでしょう?まあ、良いですけど」

榛瑠と美園さんだ。椅子に座る音が聞こえた。

外に出るにはデスクの前を通らないといけない。うう、なんかやだなあ。榛瑠も忙しいのになんでいるのよ。

カタカタとパソコンのキーボードを叩く音がする。

「ああ、ここね」榛瑠の声だ。「あなたの方ができるのに私がチェックってどうかという気もしますけどね」

「あら、ダブルチェックって大事じゃない?」

何をしているかイマイチわからないけど、美園さんが良識的なことを言っていてなんだかビックリ。

でも、何やってるの?パソコンのトラブルかな?彼、得意だからなあ。

「そういえばさあ、今朝向こうからメール来てたよ。なんか楽しそうでムカついた」

「彼らはいつだってご機嫌じゃないですか」

「それがムカつく。あたしなんてこんなとこで1日仕事に追われてさ」

「追われているようには見えませんよ、楽勝でしょ、別に」

「そーゆーことじゃない」
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