天使は金の瞳で毒を盛る
「ねえ、もうさあ、いい加減帰ろうよ、向こうに」

「帰る場所なんてないでしょう」

「なにがっ、みんなめっちゃ待ってるってわかってるくせに。あたしここもう飽きた」

「自分で来たいって言ったんですよ。英語話すの飽きたって言って」

「もう、日本語飽きた」

「ワガママ言わない」

仕事をしながらみたいだけど二人でずっと喋っている。なんか立ち聞き状態になっちゃってるし。ますます出れなくなってしまった。

「それに、アンタのその言葉遣いも嫌いなのよ。なんなん、その喋りかた」

「まあ、日本語だとどうしてもね」

「ヘンだし。どういう育ちしたんだか」

榛瑠の笑い声が小さく聞こえた。なんか、嫌な気がした。なんか自分が責められているような。

それに、二人とも思ったより仲良くない?

「すごい、らしくない。違う生き物みたい」

「意識せずこうなっているだけですけど」

「だからさあ、戻ろうよ。アメリカにいた時の方が、ハルっぽかったよ」

「その人らしさが何かをあなたと議論するつもりはないですけど、ダメです。戻るつもりはありません。一人で帰ったら?」

美園さんが不平を言うのが聞こえた。

「…これ、問題ないと思います。このまま進めて良いと思いますよ。相変わらず優秀で感心しますね」

⁇なに?美園さんのこと?

「それ言うあんたもね。そーゆーとこめっちゃ好き。一人で帰ったら、ハルいないじゃん。いい男いないなんてヤダ」

それからちょっと静かになった。次に聞こえたのは榛瑠の声。
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