天使は金の瞳で毒を盛る
「美園、前みえない。どいて」

美園さんのなんだか色っぽい楽しそうな笑い声がした。

「本当に動じないよね、大好き。女ったらすの上手いんだから。あ、あんたの場合男もか」

「つまらない事言ってないで…」

そこでまた間が開いた。なんなの?なんか嫌な感じ…。

「とか言いながら意外に抵抗しないね。たまってんならいつでも相手してあげる」

美園さんの甘ったるい語尾をあげる声がして、また間が開く。

間違いない。これ、絶対キスしてる!

何やってるのよ!会社で!

そりゃ、資料室って美園さんが入る前は特に、誰もいない時間が多くてそんな場所だったとかないとか噂は聞いたことあるけど!

今もか!ってあんたもか!っていうか何?どこもかも腹立たしい!

次に声がしたのは榛瑠の方だった。

「いいからどいて、美園」

「え〜、まだいいじゃない」

甘える声。

「飽きた。どけ」

榛瑠の冷たい声。何なの!

美園さんの文句と椅子から立ち上がる音が同時にする。

「ついてくるな」

「トイレ行くだけだよ〜」

戸が閉まる音がして私はそっと顔を出した。誰もいない。慌てて部屋を出る。

なんなの、一体!あの二人、そういう関係なの?

何よっ!榛瑠ったら人に思わせぶりな事しといて!本当に信用できない!

どこへでも行けばいいのよ!アメリカだろうと、アフリカだろうと!

勢いよく廊下を曲がったところで人にぶつかりそうになった。

「お、あぶねー。なんだ、一花か」

「鬼塚さん…。すみません。外回りですか?お疲れ様です」

鞄を持った鬼塚さんがそこにいた。

「おお、戻ったところ、って、お前どうした?」
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