天使は金の瞳で毒を盛る
自分のデスクまで戻って座る間も無く、林さんが話しかけてきた。

「ごめんね、勅使川原さん、まだ一箱あったわ。お願いできる?」

「え?」

デスクのすぐ近くに一箱たしかに置いてあった。

「よろしくね」

そう言って林さんは席に着いてしまった。篠山さんも席にいない。まあ、どっちにしろ一人でやるけれども…。

今日は厄日だ。

運ぼうとして、台車を資料室に置いてきたことに気づいた。取りに戻ろうかとも思ったが、それもなんだか面倒でそのまま運べないか箱を持ってみた。

な、なんとか、なるかな?重いけど。

そのままヨタヨタと廊下に出る。なんか、腰痛いかも。普段、重いものなんて全く持たないからなあ。

半分視界も塞がれた状態で危なっかしく歩いていたら、名前を呼ばれた。

「勅使川原さん、何運んでるんですか。手伝いますよ」

榛瑠だった。なんか、もんのすっごく、腹が立ってくる。

「いいです。私の仕事です。大丈夫です」

「資料室まで運べば良いんですね?」

「いいですから、課長は早く仕事に戻ってください。遊んでないで」

そう言って、早足で立ち去ろうとして、箱の重さでよろめいてしまった。

榛瑠が腕を伸ばして支えてくれる。

「ほら、危ないでしょう。運ぶなんて直ぐですよ。貸して」

そう言って、ダンボールを取って行く。彼が持つと軽い荷物みたいに見える。

すごく面白くない。…でも、助かるけど。

資料室はまたしても誰もいなかった。いったい、ここの人たちはちゃんと仕事しているのだろうか。

資料を入れる棚の前にダンボール箱を置いてもらう。
< 113 / 180 >

この作品をシェア

pagetop