天使は金の瞳で毒を盛る
「ありがとうございました。後はやれますので、課長は戻って下さい」

「…あなた、何か怒ってます?」

「怒ってませんよっ」

声が怒ってるけど、仕方ないでしょ!

私は彼を無視して資料を戻し始めた。榛瑠は後ろで黙っていたが、私が手の届かない一番上の棚に資料をしまおうと背伸びした時、手を伸ばしてしまってくれた。

「大丈夫ですからっ」

お礼をいう気にもならない。早く出て行ってよね。これ以上いたら、絶対、八つ当たりするからね。

そうよ、あなたがどこで何してようとあなたの自由よ。それこそ昔っから。もう、太古の昔からよ!

無言で片付け続ける私を見て、榛瑠が言った。

「…立ち聞きはいい趣味じゃないですよ?」

顔が一気にあつくなった。なんで!?

「だって、片付けてたらあなた達が入ってきてっ。出て行きそびれて」

私はしどろもどろになりながら言い訳する。

「ああ、やっぱり、立ち聞きしたんだ」

「…引っ掛けたわね!」

「台車置きっぱなしだしそうかな、と思ったもので」

「最悪。っていうか、やってる事が最悪。会社でなにしてるのよ!」

榛瑠は黙ってこちらを見た。な、なによ。

と、いきなり近付いてくる。私は思わず下がる。背中に資料の棚があたって足が止まった。

榛瑠は腕を伸ばすと私の頭上の棚に両手をついた。小柄な私は長身の彼の、両腕と体に挟まれて全く身動きできなくなる。

なに!?なんなの!?顔、めちゃくちゃ近いんだけど!

「何してたと思います?」

榛瑠が呟いた。

「…し、知らない!いいからどいてよ」

「仕事ですけどね」

彼はにっこり笑った。この大嘘つき!

「あなたこそ、さっき鬼塚さんと何話してたんです?」
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