天使は金の瞳で毒を盛る
「…そこを退きなさい、榛瑠」

冷静な声が出る。

「…失礼しました、お嬢様」

彼が離れる。暑さが和らぐ。榛瑠は何事もないような顔をしている。

「あなたは私にどうして欲しいの?」

その問いに榛瑠は微笑んだ。中途半端に閉じているブラインドから漏れてくる西日が、彼を金色にしている。

「社長に言われませんでした?決めるのはあなただ」

そう言うと、私を残して部屋を出て行く。

と、美園さんの声が聞こえた。うわっ、いつからいたのよ。

「なかなかエグい可愛がり方するのねえ」

楽しそうなその声に、榛瑠が何と答えたのかは聞こえなかった。

扉が閉まる音がした。私も戻らなくちゃ。台車も持って帰らないと…。

一呼吸して扉に向かうと、すぐ近くのデスクで美園さんがドーナツを食べていた。

私はなるべく目を合わせないように通り過ぎる。

「あっまーい、これ」

いきなり美園さんが大声で言った。なに?ビクッとして立ち止まってしまう。

「あんまり甘いとさあ、むしゃむしゃ食べられちゃうよねえ。むしゃむしゃってさっ」

そう言ってドーナツに大口でかぶりつく。

私は思いっきりドアの音を立てて資料室を出た。



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