天使は金の瞳で毒を盛る
鬼塚の場所
「一体何なのよっ、ふたりとも!」

だん、と日本酒の注がれたコップがカウンターに音を立てる。

「一花、落ち着け。誰のことだよ、そもそも」

「鬼塚さんのことじゃないですから、気にしないでくださいっ」

どうしたって気になるだろう、と、鬼塚は思う。まあ、想像はつくが。

「まあまあ、イチカちゃん、怒るより楽しい方がお酒美味しいよ」

カウンターの向こうから声をかけられて、一花はすみません、と小さくなっている。

ここは兄がやっている日本酒バーだった。

バーといってもそこまでおしゃれなものじゃない。昼間はふつうに小売の酒屋をやっていて、日が沈んでから増設したこのスペースで、カウンターだけの日本酒とちょっとしたつまみを出す飲み屋をやっている。

「でも、鬼塚さんの実家がこんな素敵なお店で驚きました」

「ステキなんて代物じゃないだろうが」

「え〜、なんで?すごくいいですよ、居心地いいし」

鬼塚としても、一花の素直な感想は嬉しい。連れてきてよかったと思う。

「居心地いいのはいいけど、飲み過ぎるなよ?」

はーいと言いながら楽しそうにグラスを空ける一花を見ながら、ダメだこりゃ、と思う。こちらで気をつけてやらないとな。

一番端の席で半分壁に体を預けながら鬼塚は隣の一花を見る。怒ったり、ニコニコしたり、あいかわらず忙しいなこいつ、と思う。

でも、昼間泣いてたから、つい、連れてきてしまった。

鬼塚は、そのことを思い出して一花から目をそらすと、自分も一口酒を呑みながらカウンター向こうの兄に声をかけた。

「そういえば、兄貴、義姉さんは?」

「あー、今、奥でガキ寝かしつけてるよ。最近なかなか寝なくってさあ、坊主」

「鬼塚さん、甥っ子さんいるんだ?」

「いるぞ。まだろくに動けもしない芋虫みたいなやつが」

「それ、酷くないです?だって、めちゃめちゃ可愛いでしょ、赤ちゃんって」
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