天使は金の瞳で毒を盛る
「おう、めちゃめちゃ可愛いぞ」

「馨、メロメロだぞ、俺の子なのに」

兄が笑うのを聞きながら、一花がきょとんとなっている。

「カオル?」

「…おまえ、まさか俺の名前知らないのか?」

「え、あっ、鬼塚さんの名前!そうでした!すみません」

「いいけどよ…」

「似合わないもんな、この顔に」

「うるせーよ、兄貴」

言われた兄の方は笑いながら聞き流し、別の客の相手をしに行く。

「仲、いいですね、お兄さんと」

「そうか?普通だぞ?昔は結構、喧嘩もしたし。今は流石にしないけどな」

「仲いいですよ、私、一人っ子だから羨ましいです。二人兄弟ですか?」

「いや、もう一人、弟がいる」

「へえ、そうなんだ、賑やかですね」

笑顔で一花が話している。こんな風に自分のことを語るのはおかしな感じだと思う。

「なんか、いいなあ。兄弟いて仲よくて。赤ちゃんもいて」

「俺の子じゃないぞ?」

一花が笑った。

「わかってます、ちゃんと聞いてましたよ。でも、赤ちゃん好きな男の人っていいですよ?誰かなんて全然…」

そこで言葉をきると、一花はグラスに手を伸ばした。鬼塚は、誰と比べているんだか、と思ったが口には出さなかった。

「あーあ、いいなあ。私なんてどこいっても一人だしな」

一花が酔いがまわってきたのか、頬杖をつきながら言った。

「…男いないのかよ」

「そんなもの…。鬼塚さんこそいないじゃないですか」

「ほっとけよ」
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