天使は金の瞳で毒を盛る
「鬼塚さんは一人暮らしでしたか?」

「ああ、大学の時に家を出た。お前も一人暮らしだろ?確か、わりと会社の近くに住んでるって」

「よくご存知ですね」

知りたくなくとも、お前の噂はなにかと入ってくるんだよ、と鬼塚は思った。一人暮らし、ねえ。

あれは、船の行方不明事件の後だったか。残業でおそくなって一人で飯食って帰るとき、四条榛瑠の乗る車を偶然見かけた。

その助手席にいたのは、多分こいつだ。

鬼塚は隣で突っ伏している一花に目をやる。一体、どういう関係なんだか。イケメンで仕事のできるエリートと目立たない女子事務員、か。

「一応、二杯も飲ましてないんだぜ?思ったより弱いな、一花」

「いい加減、本人が自覚すればいいのにと思いますけどね」

よく知っているようなその口ぶりに鬼塚は少しイラっとする。だが顔には出さず静かに酒を傾ける。

隣も静かに飲んでいた。何を考えているかわからない、端正な横顔で。

それにしてもちょっと驚く。鬼塚は隣の男のいくつかついたピアスやらを見ながら思う。会社では隙のない淡々とした男がプライベートではこの格好か。

なんかありそうな奴とは思っていたけど、マジで得体が知れない。なんだかんだ言って興味深い男だ。

「これさ、つけすぎじゃないのか?」

鬼塚は男の左指についた指輪をさして言った。長くて綺麗な指に三つ、ゴツい指輪をしている。

「ああ。つけてると攻撃力あがるんですよね」

「え、マジか。指、痛くないのか」

「全然。いいですよ、これ」

「へえ、それならいいな」

その時、いきなり一花が起き上がった。
< 121 / 180 >

この作品をシェア

pagetop