天使は金の瞳で毒を盛る
「いったい、二人とも何と闘うんですか!おかしいでしょ!」

そう言うと、四条の方を睨みつけた。

「だいたい、なんであなたがいるのよ。帰ってよね、お酒不味くなるわ」

「それはちょうどいいですね。これ以上呑まなくてすみますよ?」

その言葉を聞いたかどうなのか、また、すぐカウンターに突っ伏して寝てしまった。

「怖え、酔い方怖いぞ、こいつ」

「ほんとにね」

鬼塚の言葉にため息混じりで返事が返ってきた。鬼塚は思わず笑いがこぼれた。

「でさ、いったいこいつのどこが気に入ったわけ?お前ならいくらでも選び放題だろうに」

四条がこちらを見る。

「…いきなりですね。少々びっくりしました」

「おう、俺も声に出してからビビったわ」

「こじれてません?大丈夫ですか、鬼塚さん」

「お前、一応、俺が先輩だって知ってるか?外に出たいなら付き合うけど、指輪は外せよ」

四条榛瑠は微笑する。

「そうでしたね。でも、まだ飲んでるので遠慮しますよ。それに話なら先輩からお先にどうぞ。なんで、あんた、一花に構うかな?」

四条の目が笑みを含んだまま細くなる。一花、か。苗字で呼んでたよな、いつもは。どこいったよ、穏やかなエリート課長は。

とはいえ、こう言う時に気の利いたことを言ったりして誤魔化すのは自分の性分ではない。

「俺は、まあ、俺のこと怖がらない女って珍しいからさ。少々キツく言っても泣かないしな。それだけでもたいしたものだと思ってるし」

そう、確かに一花は不器用で、最初は全く使い物にならなかったが、それでもなんでも、逃げ出さず、泣きもせず、ゆっくりとではあったが仕事に誠実に向かった。

そのうえ、周りがヒク勢いで指導した俺を怖くないと言う。それって稀有な存在じゃないかと鬼塚は思う。

「怖い人に慣れているんですよ」そう言って四条はジャケットを脱ぐと寝ている一花にかけた。「それに、甘えるのが下手だから」

「…そいつが今日、会社で泣いてたんだけどな。誰のせいだか」

「…気づいたのがあなただったからでしょうね」

「ムカつくな」

「ほんとにね」

そう言って二人同時に酒を口にする。
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