天使は金の瞳で毒を盛る
「だって、名門校もでてるし、そこまで粗末にされたわけでもないだろうが」
「十二分にしてもらってますよ。でも、鬼塚さんの今住んでいるマンションだかアパートだか…」
「安アパート」
学生の時に借りた安いぼろアパートにまだ住んでいる。
「そこに何年いらっしゃるか知りませんが、そこを自分の家と言いますか?」
「…言わないな」
「そういうことです」
鬼塚は表情の変わらない男の横顔を見る。変わらない、ということに痛みを感じる。
「なんか、寂しい事言うよなあ」
「そうですか?悪くないんですよ?」四条は微笑を浮かべた。「どこにでも行けるし、何でもできるし。家なんかなくっても問題ないです」
「そうか。俺なんてここから動いた事ないからなあ。アパートも実は近いんだわ」
「不満がないならいいんじゃないですか。それはそれで悪くないです」
「ああ、そう思う」
鬼塚はカウンターの向こうで働く兄や店を見るとはなしに見る。動かし難くここが家だった。それを、気に入っている。
ふと、四条が自分を見ているのに気づいた。だが、視線が合う前に彼の視線は横で眠っている一花に向いていた。
「…家があってもなくても、待っている人がいればね…」
その呟きとともにわずかに見せた表情を鬼塚は見逃さなかった。一花を見るそれは、見たことのない柔らかさだった。
そこに、質問のすべての答えがある気がした。この男がここにいる理由も、彼女である理由も。
そして、参ったな、と思った。これ、どうするよ?
「さて、そろそろ起こさないとね」
「十二分にしてもらってますよ。でも、鬼塚さんの今住んでいるマンションだかアパートだか…」
「安アパート」
学生の時に借りた安いぼろアパートにまだ住んでいる。
「そこに何年いらっしゃるか知りませんが、そこを自分の家と言いますか?」
「…言わないな」
「そういうことです」
鬼塚は表情の変わらない男の横顔を見る。変わらない、ということに痛みを感じる。
「なんか、寂しい事言うよなあ」
「そうですか?悪くないんですよ?」四条は微笑を浮かべた。「どこにでも行けるし、何でもできるし。家なんかなくっても問題ないです」
「そうか。俺なんてここから動いた事ないからなあ。アパートも実は近いんだわ」
「不満がないならいいんじゃないですか。それはそれで悪くないです」
「ああ、そう思う」
鬼塚はカウンターの向こうで働く兄や店を見るとはなしに見る。動かし難くここが家だった。それを、気に入っている。
ふと、四条が自分を見ているのに気づいた。だが、視線が合う前に彼の視線は横で眠っている一花に向いていた。
「…家があってもなくても、待っている人がいればね…」
その呟きとともにわずかに見せた表情を鬼塚は見逃さなかった。一花を見るそれは、見たことのない柔らかさだった。
そこに、質問のすべての答えがある気がした。この男がここにいる理由も、彼女である理由も。
そして、参ったな、と思った。これ、どうするよ?
「さて、そろそろ起こさないとね」