天使は金の瞳で毒を盛る
「私じゃないです。あなたの所から呼びましたから」

「高橋さん?」

「そう」

「それなら帰る」

内輪の話らしい。四条は会計をしようとカウンター向こうに声をかける。

「ああ、いいよ。馨に奢らせるから」

兄が勝手なことをいう。

「はあ?四条の分もかよ」

「ごちそうさまです」

「しゃあないなあ、まあ、いいけどよ」

礼を兄にも言うと、四条はもう一度、一花に声をかけた。

まだ半分寝てるような顔をした一花は「うん」と言って、ためらいもなく両腕を彼に伸ばした。

伸ばされた方はしょうがないなあ、と呟きながら彼女を抱き上げる。お姫様抱っこで。

店の中にいた数名の客がこちらを見る。鬼塚もはあ? と思う。なんなんだ、この近さは。普通の恋人同士よりよっぽど…。

「今更だけど、おまえら付き合ってるの?」

「いいえ。…返事待ちです」

鬼塚を見て言う。一花もよくわからんなあ。普通なら、一も二もなく、っていう相手だろうに。

何かあるんだろうが。

もっともそれなら付け入る隙もある…か?本当に?

現実は厳しそうだ。あーあ、と鬼塚は思う。あーあ、つまらんな。

鬼塚は見送りがてら店の引き戸をあけてやると、外へ出た。後ろから二人が出てくる。店の近くに高級車が停まっていた。

「鬼塚さん、おやすみなさい」

一花が抱き上げられたまま半分寝た顔で鬼塚に言う。

「おう、無事帰れや」

いろんな意味でな、と鬼塚は思う。

「大丈夫〜、バイバイ〜」

一花がへにゃへにゃとした声で言う。
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