天使は金の瞳で毒を盛る
「お疲れさまでした。鞄ここに置きます」

そう言って榛瑠は鞄をデスクの横に置いた。

「他に用がなければこれで失礼しますが」

「ああ、コーヒーが飲みたいなあ」

社長が部屋のソファに座りながら言う。

「…お入れします、お待ちください」

榛瑠は部屋を出て隣室に行き、手慣れた手つきでドリッパーをセットする。

いい加減にしろよ、休日だってわかってるのか?

コポコポいう音とコーヒーの香りが静かな部屋に漂う。

休日の昼に社長の友人の昼食会に付き合わされて、社長のマンションに戻ったところだった。

それにしても面倒くさい話だ。あっちは紹介してやるぐらいのつもりかもしれないが、実際は荷物持ちの私設秘書だ。

本当のところ、社長だって、自分が面倒な昼食会に俺を巻き込んだだけだ。

入れ終わったコーヒを一つ持って戻ると、ローテーブルに置く。

「ああ、ありがとう」

言って、社長が手をつける。「君も突っ立ってないで座ったらどうだい?」

これ以上何の用だ、と思ったが態度には出さず社長に向かい合ってソファに座った。

「ところで、」コーヒーを飲みながら社長が言う。「一花とはどうなっているんだ?」

「…どうにもなってませんよ」

榛瑠は感情を出さずに淡々と答えた。

「君ともあろうものが、というべきか?いや、一花が思慮深いのかな。なんにしろ、もうすぐ三ヶ月だぞ?どうする?」

「期限をつけられた認識はありませんが」

「そうは言ってもなあ。生涯かけて、とか言われたところで君の都合だしね。私はいつまで待てばいいのかね」

「お嬢様に聞いてください」

「そんなこと、父親から聞けるわけないだろう?わかってないなあ」
< 132 / 180 >

この作品をシェア

pagetop