天使は金の瞳で毒を盛る
そう言ってコーヒー飲む。

知ったことではない。娘にいい顔したがるのも大概にすればいい。

数ヶ月前、日本に着いたその日にこの人に呼び出された。一花と引き合わせるつもりだが、選ぶのはあくまでもあの子だし、それがそのままお前の将来を約束するわけでもない。ただし、ここにいる限りはその能力を会社のために使ってもらうぞ、と。

わかっている。そのために、二年、アメリカ支社で成果をあげたんだ。

この場所に引きづり出されるために。

アメリカで自分で築き上げたものを棒に振ってまで、ここに来る必要があった。

社長はその時、こうも言った。

「ただし、三ヶ月だ。それを過ぎたら他を探すからな。」

「何をそこまでする必要が?一花が嫌がりませんか?」

「会社の将来もあるし、何よりフラフラさせとくのは心配じゃないか。それでなくとも社会で働くと言い出すし、まあ、周りの人間には配慮はしているがね」

自分の目にかなった人間を娘の側には置いておきたいということらしい。会社に入ってわかったが、どうやら、社内にも彼女の見張り役が配置されているようだ。

最初に配属されたのが、人望のある鬼塚の下だったのも偶然ではない。

榛瑠としてはここでつまらない約束をする気は無かった。だから、言った。

「そんな期限はつけられるつもりはありません」

「では、どれくらいと考えているのかな?」

「生涯かけますよ」

表情を変えずに言ってやった。でも、本音だった。社長は笑ってそれは困ると言った。そこまでお前に時間はかけないと。
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