天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠は返事をしなかった。俺はともかく一花の人生でもあるんだ。わかっているのかな、この人は。

社長は今まで一花に将来性のありそうな男を何人か紹介してきた。すべてうまくいかなくて、その事を彼女は自分のせいだと思っているが、何人かは社長のせいだ。彼が、裏でふるいにかけたのだ。

そして、その事を知らないまま色々なことが重なって自信を失った娘のために、俺を呼んだ。彼女に自信を取り戻させる役として。

それはそうだろう。その辺の男より、一花のことはわかっている。たとえ何年もの間、声一つ聞かなかったとしても。

ずっとそばにいたんだ。誰よりも、側に。

日本を旅立つあの日まで。そして、もう帰らないつもりだった。そのはずだった。それで、いいはずだった。

榛瑠は一瞬目を伏せた。思い通りにいかない自分の人生に少々うんざりする。

社長の置いたカップがかちゃっと音をたてた。

「まあ、いいだろう、もうしばらく待っても。この前少し話しておいたからね、彼女も考えるさ」

「…他に用がなければ、失礼します」

そう言って榛瑠は立ち上がろうとすると社長が言った。

「そうだな、今日は休みだったな。ところで、君の会社はどうなっているんだい?」

「変わりありません」

「社長の君も右腕の女の子もいないのに大丈夫とは、いいスタッフを集めたんだねえ、経営者としては羨ましいよ」

美園は右腕というより、引っ掻き回し役だけどな、と思いながら榛瑠は言った。

「運が良かったので。それに、そろそろ手を引きますよ」

「意外に簡単にいかないものさ、思い入れがあるものは特にね。まあ、でもその時はうちが買うよ」

あんたには絶対売らない、と心中で堅く決意する。

「お手を煩わせはしません。ところでもういいですか」
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