天使は金の瞳で毒を盛る
「随分急ぐね、何かあるのかい?」
あんたの娘に呼び出されてるんだよ、とは言わなかった。何言われるかわかったものではない。
「お気にさわったのなら申し訳ありませんが、この後人と会う予定があるので」
「そうか、それはすまなかったな。交友する人間は考えているか?」
「人脈づくりには関心がありません」
必要な時に必要な人間は向こうから来る。いちいち探し回ったりするほど暇じゃない。
社長はやれやれといった表情をした。
今度こそ榛瑠は立ち上がり一礼して部屋から出ようとした時、名前を呼ばれた。
「榛瑠」
「はい」
名前を呼ばれることはめったにない。少々どきっとして振り返る。
「君を息子と呼べる日を楽しみにしているよ」
そう言って、社長であり、一花の父親である男は微笑んだ。鷹揚で自信に満ちた笑顔で。
…この人に与えられたものはいろいろある。衣食住はもちろんだったが、最大のものは教育だ。
庶民であるためと言って公立中学に行かされ、人脈のために名門私立に入れられ、ついでに、どうやら彼の中で私は予想外に優秀だったらしく、ビジネスも学ばされた。
それもこれも、一花のためだ。
一花の将来に渡って補佐をする人間を育てたかったのだ。結局、こちらにその意思がないとわかると、日本から放り出されたわけだが。
それでも学んだことは役に立つ。特に、稼いで食っていく必要性が生じた時、面白くもなかったビジネスのノウハウが役に立った。
そして、笑顔の作り方もあなたを見て学びましたよ、社長。
「私も楽しみです、社長」
榛瑠は笑顔で答えた。どんなセリフも笑顔で言う自信があった。社長の笑顔も崩れない。
そして出て行く榛瑠の後ろでまた声がした。朗らかな声だった。
「でも、まだ孫はいいからな」
榛瑠は聞こえないふりをして部屋をでた。
あんたの娘に呼び出されてるんだよ、とは言わなかった。何言われるかわかったものではない。
「お気にさわったのなら申し訳ありませんが、この後人と会う予定があるので」
「そうか、それはすまなかったな。交友する人間は考えているか?」
「人脈づくりには関心がありません」
必要な時に必要な人間は向こうから来る。いちいち探し回ったりするほど暇じゃない。
社長はやれやれといった表情をした。
今度こそ榛瑠は立ち上がり一礼して部屋から出ようとした時、名前を呼ばれた。
「榛瑠」
「はい」
名前を呼ばれることはめったにない。少々どきっとして振り返る。
「君を息子と呼べる日を楽しみにしているよ」
そう言って、社長であり、一花の父親である男は微笑んだ。鷹揚で自信に満ちた笑顔で。
…この人に与えられたものはいろいろある。衣食住はもちろんだったが、最大のものは教育だ。
庶民であるためと言って公立中学に行かされ、人脈のために名門私立に入れられ、ついでに、どうやら彼の中で私は予想外に優秀だったらしく、ビジネスも学ばされた。
それもこれも、一花のためだ。
一花の将来に渡って補佐をする人間を育てたかったのだ。結局、こちらにその意思がないとわかると、日本から放り出されたわけだが。
それでも学んだことは役に立つ。特に、稼いで食っていく必要性が生じた時、面白くもなかったビジネスのノウハウが役に立った。
そして、笑顔の作り方もあなたを見て学びましたよ、社長。
「私も楽しみです、社長」
榛瑠は笑顔で答えた。どんなセリフも笑顔で言う自信があった。社長の笑顔も崩れない。
そして出て行く榛瑠の後ろでまた声がした。朗らかな声だった。
「でも、まだ孫はいいからな」
榛瑠は聞こえないふりをして部屋をでた。