天使は金の瞳で毒を盛る
思い出はいつも笑顔とともにやってくる。

いつだって笑っていた。幼いながらもクソガキだったのに怒られた記憶がない。

あるのは涙目になりながら「君のイタズラは本当に独創的ですばらしいよ」と褒める父の顔だ。

失敗すれば「素晴らしいチャレンジだ、華子ちゃん譲りだね!」。

お嬢様育ちで何もできない母と三人、ひたすら笑い転げる、そんな日々。

父の金の髪と仕事をしている時の集中しきった瞳。

母の長く美しい黒髪と優しくて白い手。

明るい光と二人の笑顔。そして笑顔の生意気そうな顔の男の子だった自分。

そんな切れ切れの思い出が胸をよぎる。

ただひたすらに愛情だけをシャワーのように浴びて育った。

ただ当たり前に愛していた。

それがある日いきなり無くなる。ありふれた事故だと後で誰かが言っていた。

そのあたりの記憶は曖昧だ。ただ気づいたら胸クソ悪くなる施設で毎日を過ごしていた。

最低だった。

毎日傷だけが増えていく、真っ黒に塗り込められた日々。

そこから何が何でも抜け出したくて、慈善事業の一環として訪問しに来た金のありそうな男に自分を売り込んだ。

そして連れて行かれた先に、一花がいた。


それはまるで、暗闇に咲く一輪の花のように。


一花、僕の無くした全てを君は持っていた。僕の無くした全てが、君の中にあったんだ。

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