天使は金の瞳で毒を盛る
今日の午後、榛瑠を呼んでいる。

彼を私から呼びつけるのはたぶん初めてだ。

私はでもそれができるのをずっと知っていた。


鬼塚さんに誘われて飲みに行った次の日の昼休み、休憩所で彼を捕まえてお礼を言って、そして謝った。

「すみません、途中で寝ちゃって。奢って貰っちゃったし、ごめんなさい」

「いいさ、別に気にしてない。二日酔いとか大丈夫か?」

「全然、大丈夫です!ありがとうございます。それにあの、楽しかったです」

「それなら良かったけどな」

そう言って鬼塚さんは笑った。

「ま、気にするな。もう行くぞ?これから商談なんだ」

「あ、はい。相変わらず忙しいですね、お疲れ様です」

じゃあな、と鬼塚さんは背中をみせた。

なんだか変な気がするのは何で?何か違和感がある。私はその背中を思わず引き止めてしまった。

「鬼塚さん!」

鬼塚さんは足を止めて振り返った。私は心臓がなっていた。何で呼び止めた?私。

「えっと、あの…」

「なんだよ、何にもないなら行くぞ?」

そう言ってまた歩き出そうとする彼に私は自然に声が出た。

「あの、私、男に生まれれば良かったなって」

「は?」

え?私、何言ってる?でも止まらない。

「ずっと、思ってて。そうすればもっとたくさんいいことあったかもって。鬼塚さんの仕事の手伝いももっとできたかもって、思うときもあって」

そう、例えば榛瑠みたいに。もちろん、性別なんて言い訳だって知ってる。でも、そう思う。鬼塚さんの隣でもっと違うことができたんじゃないかって。そして、榛瑠の隣で、何かできたのではないかと。彼に与えらるものがもっとあったのではないかと、そう、思うのだ。
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