天使は金の瞳で毒を盛る
屋敷の廊下に温かい日が差していた。その一角で少年は困り果ててかなりうんざりしていた。
「だからさあ、いい加減口をきいてもらわないと、俺、結構こまるんだけどさあ。何が気に入らないんだよ」
目の前には半泣きで鼻と目を赤くした5歳の少女が上目遣いでこちらを見ている。ああ、うんざりだ。はじめて見た時から馬鹿っぽいやつと思っていたけど、それだけじゃなくてわけわかんないし。
「だから、お嬢様…」
そこまで言って急に馬鹿らしくなる。
「まあ、いいや、もう。俺が追い出されれば良いんだし」
そう言って少女に背を向け歩こうとしたら、背中に服を握っている手を感じた。榛瑠は振り返った。
「なんなんだよ」
少年はため息をつくと少女の前に座り込んだ。
「どうして欲しいんだよ、お前。わけわかんねえし」
「…いかない?」
「あ?」
「…もう、いかない?」
少女はたどたどしく言った。
「行くって、どこへ…」
そこまで言って榛瑠は思い当たる。
「え、お前まさか、この前のこと言ってんの?」
ここにきてあまり日も経たないうちに榛瑠は屋敷を抜け出した。屋敷では家出したと騒動になったらしいが、彼としてはただ単に親の墓参りに行きたかっただけだった。
一週間後には見つかって連れ戻されて、嶋さんをはじめ皆に散々怒られた。
行きたいところがあるなら言え、とも言われたが、言ったところで叶えてもらえるわけないんだしと、榛瑠は少しも反省なんてしなかった。むしろ、目的を果たした後に見つかってよかったと心の底から思っていた。
「って、それもう、一ヶ月近く前…」
そうだ、この子、帰って来てから口きかなくなった。
「え?それで?なんで?関係ないだろ?」