天使は金の瞳で毒を盛る
目の前の少女の大きな目にみるみる涙が溜まっていく。

うわっと、榛瑠は思って慌てて言った。

「いや、悪かったけど。もう出て行くつもりないよ。あ、あんたがずっとそのままだと追い出されるかもしれないけど」

「…いる?」

少女は榛瑠の着ていたTシャツの端をつかんで言う。

「いる、いる」

なんでも良いからさっさと機嫌直せ。

少女は少年をじっと見ると、鼻をグスグスいわせたままにっこり笑った。

少年は大きくため息をつくと背中を丸めた。「まじか、ほんとにそれかよ」そうして目の前の少女を見る。

そして、ゆっくりと呟くように話しかけた。

「悪かったよ。…だってさ、だって、俺がいなくなって泣く奴がまだいるなんて、…考えもしなかったから…」

ごめんな?と言って榛瑠は一花の頭をそっと撫でた。

じっと彼を見つめていた少女の目に突然涙が溢れた。

「え?なんで?」

なぜか、彼女は泣き出した。

「おい、なんで?慰めててなんで泣く?わけわからん。…やっぱお前馬鹿じゃないのか?!」

益々、大声で少女はわんわん泣きだす。

少年は訳がわからず 甲高い泣き声に思わず耳を塞いだ。俺はとんでもないお嬢様の子守をすることになったんじゃないか? と思いながら。




あの時は泣きやますのが大変だったな、と榛瑠は思い出し笑いをした。結局最後はくすぐったのだ。

一花は庭で待っていた。風が強い。

後ろ姿の彼女の黒髪と白いワンピースのスカートが揺れている。

さて、我がお嬢様はグルグル悩んだ挙句どの辺に着地したんだか。

一花がこちらを見る。思いつめたような顔をして、いつもより表情がきつい。

それ逆効果だよ、あなたのそういう顔は綺麗だから、と榛瑠は思う。

でも笑っている方がもっといい。

さあ、どうやって笑顔にしようか。あの頃より少しは笑顔にするのが上手くなっているといいのだけれど。
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