天使は金の瞳で毒を盛る
「覚えてます?私があなたの家にきてすぐ、屋敷から行方をくらましたこと」
「なんとなく」
「あのとき、一週間くらいいなかったのですけど、あなたは一ヶ月近く口を聞いてくれなくなったんですよ。今回は9年だからどれくらいかかるかなと思っていたんです」
「また、五歳児と一緒にしてる……」
でも、そうかも。もう一度会っても口もきかない、ってずっと思ってた気がする。でもそんなの、一目見て吹き飛んでた。
そう、彼がドアを開けて現れた時、死ぬほどドキドキしたもの。泣きそうだった。ほんとうに、泣きそうで……。
私は榛瑠の頭を抱えるようにぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうね」
「一花?」
「帰ってきてくれて。本当は帰ってこないつもりで出て行ったのでしょう?」
「うん、まあね」
彼はそれだけ言った。なんで帰ってこようと思ったのだろう。でも、どんな理由でも私は嬉しい。
「私の持っているもの全部榛瑠にあげる」
「一花だけでいいよ」
榛瑠は私にキスした。優しいキスだった。
「それに、あなたの父親は私を跡継ぎにしたくないんじゃないかな」
「え?なんで?」
「一度、高校生のとき打診されて断ってますしね。気に入らないと思いますよ」
え?そんな話、初耳だよ?
「え?なんでそんなこと……。でもそれも込みで戻ってきたんだよね?」
「なんだか、そのへん誤解がありますけど、社長というだけなら今でも社長ですよ。アメリカで会社持ってるので」
「え?」
「両手程度の従業員しかいない小さな会社ですけど。あなたの父親の事業そのものに元々それほど興味はないんです。動かせる金額が違うから、ダイナミズムという点では面白いですけどね、当然」
「なんとなく」
「あのとき、一週間くらいいなかったのですけど、あなたは一ヶ月近く口を聞いてくれなくなったんですよ。今回は9年だからどれくらいかかるかなと思っていたんです」
「また、五歳児と一緒にしてる……」
でも、そうかも。もう一度会っても口もきかない、ってずっと思ってた気がする。でもそんなの、一目見て吹き飛んでた。
そう、彼がドアを開けて現れた時、死ぬほどドキドキしたもの。泣きそうだった。ほんとうに、泣きそうで……。
私は榛瑠の頭を抱えるようにぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうね」
「一花?」
「帰ってきてくれて。本当は帰ってこないつもりで出て行ったのでしょう?」
「うん、まあね」
彼はそれだけ言った。なんで帰ってこようと思ったのだろう。でも、どんな理由でも私は嬉しい。
「私の持っているもの全部榛瑠にあげる」
「一花だけでいいよ」
榛瑠は私にキスした。優しいキスだった。
「それに、あなたの父親は私を跡継ぎにしたくないんじゃないかな」
「え?なんで?」
「一度、高校生のとき打診されて断ってますしね。気に入らないと思いますよ」
え?そんな話、初耳だよ?
「え?なんでそんなこと……。でもそれも込みで戻ってきたんだよね?」
「なんだか、そのへん誤解がありますけど、社長というだけなら今でも社長ですよ。アメリカで会社持ってるので」
「え?」
「両手程度の従業員しかいない小さな会社ですけど。あなたの父親の事業そのものに元々それほど興味はないんです。動かせる金額が違うから、ダイナミズムという点では面白いですけどね、当然」