天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠 は私のその手を外すとパクッと噛んだ。

「ちょっと、やだ」

私は慌てて手を引っ込める。

「もう、バカ」

「バカはお嬢様です。自分だけが怒っていると思わないように」

な、なんで?私怒らせるようなこと…いっぱいしたような、してないような。

「わ、私、何した?」

「いいですよ、もう。終わったことだし」

「…気になるんだけど」

「あなたが無垢で愚かな少女だった、ていうだけです」

「え?」

「そして私は自分をコントロールできない馬鹿で臆病なガキだったんです。今もたいして変わってはいませんけど」

私は投げやり気味に話す彼を見つめた。臆病?誰が?彼はいつだって過剰なくらいの自信家で……。

「全然わかんない。私、あなたに何をしたの?」

榛瑠はため息をついた。

「ほんとに馬鹿だな、あんたは」

「な、なによ、人にそんなことばっかり言って。どこがよ」

「強いて言えば、いつまでたっても俺を自分の所有物くらいに思っているところかな」

「そんなこと思ってないもん」

だよね? 私。

「じゃあ、聞きますが、なんで私が出て行く時引き止めたんですか」

「え、だって行ってほしくなくって……」

私は当時のことを思い出す。ワガママな子供だったかもしれない、でも。

「身勝手だったかもしれないけど、そばにいて欲しかったんだもの。だから……、だから頼んだの」

でも榛瑠は見向きもしなくて。そしてだいぶ後になって私はやっと彼が戻らないことを悟ったのだ。

ふーん、と彼は言った。「どうせなら命令すればよかったのに」
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