天使は金の瞳で毒を盛る
ああ、そうか。わたし、あなたを悲しませたのね?

「ごめんなさい」

わたしは彼の首にしがみつくように両腕を回した。ごめんなさい、ごめんね。

榛瑠が姿勢を変えてわたしの横に来る。彼の顔が横にあった。

「うん、まあ、どっちもどっちです。それが嫌で、というより何もできない自分が嫌で、何かしでかしそうな自分が怖くて、逃げ出したんだから。一花が泣くってわかっててもね。もう、どうでもよかったんですよ」

その言葉に胸がはっきりと痛むのがわかった。でも、何も言う言葉はない。

「うん、ごめんね…」

声が震える。榛瑠がわたしを抱きしめた。

「だから、勝手に誰かと幸せになってくれって思っていたのに。……結局、無理でしたね」

私は彼を感じながら考える。私はどう思っていたのだろう。忘れてしまった。顔見たときに全部忘れてしまった。

でも再会以来、でも、ずっとどこかがドキドキしていて。

「あ、そうか」

「なに?」

私は上半身を起こすと彼を見た。

「……榛瑠、背広汚れるよ」

「なんだ、それ。今そこなの?別にいいって」

そう言いながら彼も起き上がる。「で、なにが、そうか、なんです?」

「私、きっとあなたを扉の前に立たしておく気だったんだと思うわ」

「うわ、悪趣味だなあ。申し訳ないけど俺はそういう趣味ないからね」

榛瑠の眉間にシワができる。うん、だよね。でもね。

「私もなんでもよかったんだと思うの」そうよ。「あなたがいさえすればなんでも良かったのだと思うわ」
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