天使は金の瞳で毒を盛る
あなたのいない時間はすぐに忘れてしまえるくらい何の意味もないの。

「榛瑠がいないとどうやら私の感情は動かなくなるみたい。誰と会っても何も感じなかったし」

再会するまで私の心は凪いでいた。色のない世界で動かないでいた。その事に気づきもしないで。

今は毎日がとても鮮やかだ。ドキドキずっとしている。

「なんだか新婚旅行にも付いて来いとか言われていたような勢いですね」

「言ったかも」

おかしくて笑ってしまった。

「最低」

榛瑠は微笑しながら言うと、私の胸元に顔を近づける。

リボン! 解けたままだし!

榛瑠が口づけする。思わず目を閉じる。

「いたっ」

榛瑠が離れたあとを見るとうっすらと赤くなっている。

「所有物の印つけておいただけだよ」

なんなの!もう!

「なんならもう少しわかりやすい場所につけてあげましょうか?」

「いらない!バカ!」

焦ってリボンを結ぶ。でも、うまく結べない。

そんな私の手をどけさせて榛瑠がきれいに結んでくれる。

制服のリボンを毎日結んでいたのに私が全然上達しなかったのは、代わりに結んでくれる人がいたからだわ。我ながら成長してないし。

しかめっ面をしているであろう私に軽くキスして彼は言った。

「言っときますけど、あなたがいない時間を私は充実させてましたからね」

……わかってるわよ。味園さんとの話を盗み聞きした時感じたわよ。でも言わなくてもいいじゃない。

「……いじわる」

榛瑠はにっこり笑った。この人、私に嫌われるとか思わないのかな。

「あんまりいじわるしてるとちょっと嫌いになるかもよ」

と、言ってみる。

「ならないでしょう?」笑顔のまま榛瑠は言う。「だって、9年ほっといて嫌いになってなかったんだから」

「でも、怒ってたよ。すごく!」

「そう?でもレストランで再会した時、今にもとびついてきそうな顔してたよ、あなた」

一気に顔があつくなった。いや、そんなはずはない。間違いなく怒っていたし。でも。

……ああ、もうやだ、もう。ちゃんと我慢したのに!
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