天使は金の瞳で毒を盛る
ミソノさんは動くことなくまだブツブツ課長に言っていた。

いい加減にすればいいのに…

多分そこにいた人全員がそう思った時、おもむろに榛瑠が彼女の腕を引っ張った。ミソノさんの顔の至近距離に榛瑠の顔があった。

キャッと女子の声が何処かでした。

榛瑠はミソノさんの顔を見たまま言った。

「美園、うるさい。邪魔。仕事して。わかった?」

そう言った榛瑠の声は内容とうって変わって、ひどく優しい声で、そして、表情が、顔が、優しい、甘い笑顔だった。

美園さんは口を半開きなまま黙ってしまって、そのまま頷いた。

「定時までに終われよ」

そう、腕を離してまた画面に視線を移しながら言った言葉は、いつもの榛瑠の声だった。表情もポーカーフェースに戻っている。

美園さんは黙って踵をかえした。私たちの横を通った時、ちらっとこっちを見た。

「第二営業ですよね、行ってますから。」

そう、最初に電話に出た時のような不機嫌な声で鬼塚さんに言って部屋を出て行った。

「なんだアレ」

鬼塚さんがこっそりと親指で四条課長を指差しながら私に言った。

「…ヘンタイ」

私は小声で言う。まわりで遠巻きに見ていた女子社員が何人も顔を上気しながらコソコソ何か喋っている。

まじ、ヘンタイ。あんな顔、見せないでよ。

「溶けそう、私」

横で、篠山さんがボソッと言った。あーもう嫌。

「大丈夫か、この案件。心配になって来るわ、呪われてないだろうな」

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