天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠はスプーンで鍋の中のスープをすくって口にする。

「まだ、火入れる?」

「そうね、もう少しとろみがつくまで」

「じゃあ、いいんじゃない?美味しいよ」

彼は言わなくても塩分についてコメントしてくれた。

「頼んどいてなんだけど、うちの弟なんてあなたぐらいの時は、肉、しか言わなかったわ」

「肉?」

「肉うまい、肉じゃない、肉少ない」

私は弟の真似をした。榛瑠は笑った。

「いるいる、そういう奴」

彼は味見に使ったスプーンを流しに置く。金属の音がする。

「ま、言えるならいうけどさ、俺も」

この家では旦那様やお嬢様の健康や好みに合わせて、魚や野菜料理が多い。

賄いでそのまま出すわけではないが、手間や食材のコストを考えてもどうしても似たようなものを私たちの方もいただくことになる。

「…別に言ってもいいわよ?毎回期待には答えられないけれど」

榛瑠は私を見て微笑んだ。

「いいよ、別に。ノコさんのキャロットスープうまいよ。肉より嬉しい」

それから元の場所に戻って付け足す。「それに、今はこれで十分」

そう言ってまたイチゴを口にした。

どこまでが本気でどこからが遠慮なのかわからない。

彼は自分を開示する仕方が巧妙だ。

私は鍋の火加減を調整して次の料理に取り掛かる。

野菜を下ゆで。まずはスナップエンドウ。茹ですぎないように一番いいところであげるには実は意外に気を使う。

そこが楽しい。

一通り下ごしらえが終わった頃、榛瑠はまだ厨房にいた。
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