天使は金の瞳で毒を盛る
白い器にはまだ苺が入っていたがそれには手をつけず、カウンターにもたれかかっていた。

彼の右手の北側の窓から鈍い光が入っている。窓の向こうには緑の木々とその合間から煙ったような空が見えた。

その光を受けながら、彼の周りだけまるで時間が止まっているかのように、ボンヤリとそこにいた。

私は以前、絵を描いていて学校にも行った。結局挫折して、どういう巡り合わせか料理の世界に入ったが、今でも不意に描きたくなる時がある。

彼を見ていると特に。

金色の髪が淡く光を通す。白い肌、細い体。華奢な顎の線。

違和感があるくらいの長い手足と、整った横顔。

アンバランスで完璧な造形。

私は意思を持って彼から視線を外す。

その時、そっとドアの開く音がして、「あの、榛瑠います?」という、控えめな声がした。

私は声のした方ではなく、もう一度視線を榛瑠に向けた。

金色の瞳に明るい光が宿る。表情が僅かに柔らかくなる。

まるで人形に魂が宿ったかのように。

形のいい唇が動いて言葉が出る。

「お嬢様、どうしたんですか?」

私は後ろを振り返って戸口を見た。

一花お嬢様が入ってくるところだった。胸に抱くようにノートや文房具を持っている。

「あのね、数学の宿題でわからないところがあって教えて欲しいのだけど」

「またですか?自分で少しは考えた方がいいとこの前言ったでしょう?」

「考えたよ、できるところはやったよ。あ、苺食べてる、いいな」
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