天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠は置いてあった器に視線を移す。

私はこのお嬢様が苦手だった。はっきり言えば嫌いだった。

なんというか、とても大事にされている人だ。週の半分、平日は夜だけしかいない主人に変わって、実質この屋敷の中心にいる人で、皆、この人に配慮して仕事をしている。

それはお嬢様だから当たり前なのだけれど、そのくせこの方はどうにも平凡なのだった。

お嬢様だからなにか特別であってほしいと思うこと自体が庶民なのだろうとは思うのだけれど。

それにしても。

見た目も悪くはないが人目を引くほどではなく、頭もどうやら特に良いわけではないらしい。

センスも普通だし、これといった特技も聞いたことがない。

可もなく不可もない普通の少女だった。

私もそうだった。だから文句を言える筋合いではない。わかってはいるがそれでも見ていてイラっとする。

だって、あなた、この屋敷に住むお嬢様でしょう?大の大人を使う身でしょう?

そしてそんな彼女の一番近くにいるのは間違いなく、彼、だった。

榛瑠はイチゴの器を手に取ると一粒自分で食べる。一花様がそれを見ている。

「お嬢様、それは少し痛んでいたものですから、お嬢様には……」

私が言い終える前に榛瑠が一粒、一花様の口元に持っていく。彼女は嬉しそうに口にすると、美味しい、と言った。

「よければ残りあげるよ」

「ありがとう。でも榛瑠は?」

「食べた」

簡潔に榛瑠は答えた。彼は時々、言葉づかいが乱れる。基本的には丁寧なのだが徹しきれていない。

そこに彼の内面の複雑さを私は感じてしまうのだ。
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