天使は金の瞳で毒を盛る
「うお、悪かったから!」最初に言った男の子が大きな声で言う。「悪かった!だからこっち見るな、榛瑠。お前の笑ってない笑顔、ちょー怖いって」

「歩いて帰る?」榛瑠がその子を見て言う。

「? ! どうやって!?」

「バカだ……」「あーあ」。

私はやりとりを聞いて思わず吹き出してしまった。榛瑠が私を見てちょっとバツの悪そうな顔をした。

「すみません、騒いで。グラス、後で返しに行きますので」

私は厨房に戻りながら、何度か笑ってしまった。

なんだ、びっくりするくらい、普通に高校生してるんじゃない。

それで、多分、友人からリスペクトもされている。きっと、彼よりある面では恵まれた子供たちだろうに。

榛瑠の友達への態度の悪さもむしろ、高校生くらいの子の自意識の発露という気がして、私には好ましく映った。

でも、一歩自室を出れば。

屋敷内では、彼はずっと柔和になり、寡黙になり、そして。

榛瑠は私の目の前で再びお嬢様に苺を食べさせていた。

「でも、ちょっと傷み始めたのをもらったんですけどね、これ」

「へいき。あ、でも榛瑠はいっぱい食べた?」

「うん、もともと山盛りあったから」

「そうなんだ、よかったね。苺好きだもんね」

ああ、それで……。

「あ、数学!残りは勉強しながら食べる。図書室でいいよね?」

明らかにわかりやすく榛瑠がため息をついた。

彼はお嬢様に多くの時間を使われる。もともと高校生ともなるとそれほど家にいるわけではないが、だからこそ余計、割かれる割合は多くなる。

彼はここでは本当に、一花様のお世話係であった。

平凡な女の子の後ろにいる影。外とはまるで違う。お嬢様も分かっているのかいないのか。
< 168 / 180 >

この作品をシェア

pagetop