天使は金の瞳で毒を盛る
「嶋さんか誰か別の人にこれからは頼んだらいかがですか?私は教えるの上手くないし」

私は榛瑠の言葉が意外だった。

「そうなの? 上手そうだけど」

「榛瑠の教え方上手だよ?いつもちゃんとわかるもん」

お嬢様も意外そうに言う。

「そう言ってくださるのは嬉しいですけど、むしろそれは教え方じゃなくて、忍耐力を褒めてもらったほうが正しいです」

お嬢様は不思議そうな顔をした。私はなんとなく想像できる。

「わかるように教えているというより、わかるまで教えてる、なんですよ」

「えー、おんなじ事だもん」

「そう? 私的には違いますけど。だいたい、あなたがなんで分からないのか分かったためしがない」

お嬢様は最初ぽかんとして、そしてそれから徐々にふくれっ面になった。私は笑い出さないようにするのに精一杯。

「どうせ、私なんてあなたから見れば理解不能に頭悪いんでしょうけど! っていうか、榛瑠にかかればみんなそうよ。もう、いいから、早く行くの!」

そう言って、彼の腕を掴んで引っ張って行く。

「今日はお父様も帰られるし、お客様もいらっしゃるから時間ないんだからね!」

今夜、一花様のご婚約者様がおいでになって夕食をご一緒される予定だった。

「ああ、そうでした」

そう呟いた榛瑠の顔が、一瞬露骨に嫌そうだったのを、前を向いていたお嬢様は気づいていないだろう。

そのまま、お嬢様は厨房から出ていかれる。その後を苺の入った器を持って出て行こうとする榛瑠に私は思わず声をかけた。

「もしよければ、私から嶋さんに言ってみようか?」
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