天使は金の瞳で毒を盛る
鬼塚さんが冗談っぽく言う。

「仕事は大丈夫、だと思います。…私が言うことじゃないけど」

「マジかよ」

私は頷いた。四条課長はいつもと変わらない、落ち着いた態度で仕事をしていた。イライラもしていなければ慌ててもいない。

「…きっと大丈夫です。トラブルをトラブルと考えない人だと思います。四条課長」

「へえ、ヘンタイだな」

そう言った鬼塚さんを見上げて言った。

「鬼塚さんだってそうじゃないですか」

さっきから、余裕で軽口ばっかり言ってるくせに。彼の口元がニヤッと笑った。私の頭の上に手が伸びて、頭をわしゃわしゃする。

髪が乱れる。しまった、油断した。鬼塚さん、ほんとすぐこれやるんだよね。

不敵な笑顔を残したまま鬼塚係長も戻って行った。部屋にはいつもの部署のメンバーがそれぞれ仕事をしていた。

失敗した後ろめたさが頭をもたげる。こういう時って、世界に自分一人で立っている気がして来る。

誰も私を見ない。榛瑠もだ。

というか、榛瑠は配属になってずっと私に対してこんな感じだった。

決して特別に声かけたりも、怒ったりも、褒めたりもしない。みんなと同じ、だった。初対面の事務職員っていう言葉を守ってくれているとも言える。

でも、あれから家にも来ないし、仕事終わって話す機会もなく、それが続くと、なんだかモヤモヤしてきた。

そして、そんなモヤモヤにイライラした。今も、そう。

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